JAMSTEC、海洋ダイナモ効果を利用した新しい海底津波観測手法を立証

海洋研究開発機構主任研究員の杉岡裕子氏らは、東京大学地震研究所と共同で、2010年2月のチリ地震に伴い発生した津波を、深海底に設置された海底電位磁力計(OBEM)から成る電磁場観測網で捉えることに成功し、世界で初めて津波に関する誘導電磁場理論を立証した。

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電気を通す物体(導体)を磁場中で動かすと、電磁誘導によって導体の中に電流が流れ、その電流によって導体の周りに二次的な磁場が生じる。海水も電気を通す性質があるため、地球の磁場中で海水が動くと電磁誘導現象が起き二次的な磁場が生じる(海洋ダイナモ効果と呼ばれる)。

この理論を用いれば、津波の大きさだけではなく、津波の速さや到来方向も知ることが可能となる等多くの利点があり、理論的研究が進められてきたが、太陽活動に伴う磁場変動と比較して津波による変動は小さく、検出は技術的に困難なことから、海域における観測例はなかった。

研究グループでは、2000年から高精度・高分解能なOBEMを太平洋上の複数の海域に展開し、観測を行なっている。2010年チリ地震津波発生時には、震源から7000 kmほど離れたタヒチ島周辺の海底電磁場アレイ観測(特定域における)網で捉え、津波伝播過程を明らかにした。また、同地点における、微差圧計(高精度な水圧計)で同時に観測された水圧記録と比較することにより、観測データが正確に津波の情報を捉えていることを確認され、津波による誘導電磁場理論を世界で初めて立証した。

この研究で用いたOBEMのデータ高密度観測からは、多様な津波の情報を検出することができる。具体的には、磁場の大きさからは津波の大きさを、磁場が発生した時刻からは津波が観測点へ到達した時刻を検出することができる。また、磁場データから津波の到来方向を知ることもでき、これらは1点の観測から見積もることが可能である。

以上のことから、世界中の海域のほとんどで、このOBEM用いれば、センチメートルオーダーの津波の大きさと到来方位を検出することが可能であることがわかった。

今回、立証された海底電磁場観測装置を用いた津波観測理論は、日本沿岸に到達する津波の大きさと到達時刻を早期かつ精度高く予測するという、将来の津波災害の軽減のための喫緊の課題に貢献できるもの。JAMSTECでは、今回の成果を基に新しい海底津波観測装置(「ベクトル津波計」と名付けた)の開発研究に取り組んでいる。

これは、海底微差圧計とOBEMを組み合わせたもので、四国海盆において2012年11月から約3ヶ月間の試験観測を実施しているが、2013年2月6日のソロモン沖地震津波を捉えることに成功しており、その実効性を確認した。今後はオンライン化を図り、海底地形などによって時々刻々変化する津波の到来方位や速度をリアルタイムでモニタリングできるよう研究を進めていく。

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