熊本大学発生医学研究所腎臓発生分野の太口敦博氏(大学院生)、教授の西中村隆一氏らの研究グループは、マウスES細胞およびヒトiPS細胞から世界で初めて糸球体と尿細管を伴った3次元の腎臓組織を作成することに成功した。
研究グループは、マウスを用いた研究により、糸球体と尿細管はともに、胎児期の腎臓前駆細胞(腎臓の元になる細胞)からできていることを報告していた。しかしこの腎臓前駆細胞がどのような過程を経て胎内で形成されるのかはほとんど明らかにされていなかった。
今回、太口氏らは、マウスの腎臓前駆細胞が下半身の元となる特殊な細胞「体軸幹細胞」を経て形成されることを見出し、実際にマウス胎児から採取したこの細胞から、腎臓前駆細胞を作るのに必要な5種類の成長因子を特定することに成功した。
さらにこの5因子を適切な組み合わせと濃度で5段階に分けて投与することで、マウスES細胞およびヒトiPS細胞の両方から腎臓前駆細胞を試験管内で作成することができた。そしてこれらの腎臓前駆細胞をさらに培養することで、世界で初めて、糸球体と尿細管の両方を伴った3次元の腎臓組織が試験管内で再構築された。
この研究は、腎臓の元になる細胞が母胎内で形成される仕組みを明らかにするとともに、世界で初めて試験管内での3次元腎臓組織の構築を実現したもの。実際にこの腎臓組織が尿を産生するためにはさらなる細胞の成熟化と尿を排出する仕組みが必要だが、今回の成果はこれまで固く閉ざされていた腎臓の再生医療の扉を開く大きな一歩と言える。またこの方法を元に、腎臓の病気を試験管内で再現できる可能性があり、病因の解明と創薬開発につながることが期待される。
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