慶應義塾大学理工学部電子工学科教授の内田建氏らは、産業技術総合研究所ナノエレクトロニクス研究部門と共同で、産総研つくばイノベーションアリーナ推進本部スーパークリーンルーム運営室の支援を受け、先端トランジスタの作製・評価技術を駆使し、さまざまな構造の微細トランジスタにおける動作中温度の正確な測定に成功した。ナノメートル・スケールの素子では動作中の温度上昇が無視できないことを見いだし、温度を下げるための素子設計指針を開発した。
産総研はゲート長が40 nm程度の先端トランジスタを作製した。産総研で作製した素子は、従来構造のバルクトランジスタ(バルク基板上に作製したトランジスタ)に加えて、6 nmの極薄膜BOX層を持つSOI基板上に作製されたSOIトランジスタも含んでいる。トランジスタの動作中の温度を、4端子ゲート法という手法によって測定した。
慶應大学のグループは、温度変化に伴う抵抗変化の大きなニッケルシリサイド(NiSi)を多結晶(Poly)シリコンに貼り付けた4端子ゲート電極構造を採用し、高精度の抵抗評価技術と組み合わせることで、ナノメートル・スケールのトランジスタにおいて、これまで実現できていなかった非常に高い精度で温度を測定することに成功した。
温度を測定することにより、特徴的サイズが40 nm程度のトランジスタでは標準的な動作条件においてチャネル近傍の温度が20 ℃以上も上昇していることが初めて見いだされた。さらに、バルクトランジスタの局所的な温度上昇が、チャネル領域への不純物イオン注入によるシリコンの熱抵抗の上昇に起因することを示した。このことから、従来は電気的な条件からのみ最適化されていた不純物イオン濃度を、熱的な条件も考慮して最適化する必要があることが分かった。
この研究成果によって、次世代のPCやスマートフォンなどに用いられる半導体集積回路の高信頼性化が期待される。
詳しくはこちら。