京都大学教授(ウイルス研究所・iCeMS)の影山龍一郎氏らの研究グループは、神経幹細胞の多分化能と細胞分化制御において、分化運命決定因子が周期的に発現していることが重要であることを発見した。この知見をもとに、マウスの神経幹細胞の増殖と神経細胞への分化を、光照射にて人工的に制御する技術を開発した。
顕微鏡システムや画像解析法の至適化により、単一細胞レベルで、細胞分化運命決定因子であるbHLH型転写因子たんぱく質のリアルタイムイメージングに成功した。また、神経幹細胞に細胞分化を誘導して、Hes1、Ascl1、Olig2たんぱく質の発現動態をリアルタイムイメージングにて解析した。
ルシフェラーゼとbHLH型転写因子の融合たんぱく質の発現動態の観察結果から、Hes1、Ascl1、Olig2などの細胞分化決定因子は、神経幹細胞にもすでに発現しており、発現振動を繰り返すことで神経幹細胞の増殖を促進すると考えられた。一方、細胞分化誘導時にはどれか1種類のbHLH因子の発現が上昇し、細胞分化を促進することが明らかになった。
神経幹細胞は、複数の細胞分化決定因子をオシレーションさせることで、多分化能を備えつつも未分化性を保持して自身のコピーを作る(自己複製する)と考えられた。その結果、同一因子が発現動態を変えることによって神経幹細胞の増殖を活性化したり、特定の種類の細胞に分化誘導することが示唆された。
たとえば、Ascl1は発現振動すると神経幹細胞の増殖を活性化し、蓄積するとニューロン分化を誘導すると考えられた。そこで、光応答性の転写因子であるGAVPOのコドンをヒト化したhGAVPOを用いて、光照射依存的にAscl1の発現動態を人工的にコントロールできる実験系を開発した。3時間ごとに青色光を照射することでAscl1のオシレーションを、30分ごとに青色光を照射することでAscl1の蓄積を神経幹細胞に誘導できた。
神経幹細胞に青色光照射を行ない、Ascl1の3時間周期の発現振動を誘導したところ、細胞増殖(自己複製)が促進された。一方、Ascl1の蓄積を誘導したところ、ニューロン分化が誘導された。すなわち、従来用いられてきた外来性のたんぱく質や化合物を投与することなく、青色光の照射パターンを変えるだけで、神経幹細胞の増殖やニューロン分化を自在にコントロール可能な技術開発に成功した。この技術は、今後再生医療研究に貢献することが期待される。また、光照射による神経幹細胞の増殖・分化を制御する実験技術は、マウス脳内の神経幹細胞にも適応できる可能性がある。
神経幹細胞の自己複製とニューロン分化誘導を「光」で制御できる技術は、脳損傷や神経変性疾患に対する再生医療研究に貢献することが期待される。また、光照射による神経幹細胞の増殖・分化コントロール技術は、脳内の神経幹細胞にも適応できる可能性がある。
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