理研,瞬間出力2.6GWの世界最高出力孤立アト秒パルスレーザを開発

理化学研究所は,アト秒 (1アト秒は100京分の1秒,10-18秒)の時間幅をもつ極短パルスの極端紫外光(XUV)を高効率かつ高強度に発生できる手法を確立し,その手法を用いて卓上サイズでギガワット(GW:1GWは100万kW)の瞬間出力を持つ孤立アト秒パルスレーザを開発した。

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アト秒パルスを作るためには,高次高調波発生と呼ばれる非線形な波長変換プロセスを使用する。時間的に孤立した(単一な)アト秒パルスを得るには,レーザ電場のキャリアエンベロープ位相を安定化させ,かつ電場周期が数サイクルの特殊なレーザを励起光として使う必要がある。しかし,このような要求を満たす励起レーザのパルスエネルギーには制約があり,その結果,高強度な孤立アト秒パルス発生の実現は困難だった。

研究グループは,2010年に波長800nmと1300nmのレーザを時間・空間的に重ね合わせた2波長合成レーザを利用し,効率よく孤立アト秒パルス作り出す方法を開発した。2波長合成レーザを用いることで,簡易に連続的な高次高調波スペクトルを生成させることが可能になり,その結果,パルスエネルギーの大きな励起レーザを孤立アト秒パルス発生に使用できるようになった。

今回,2波長合成レーザを励起光として用い,これに最適位相整合技術と,独自の高調波エネルギースケーリング法を組み合わせたアト秒ビームラインを構築。その結果,これまで実現されたアト秒パルス出力より100 倍以上強い孤立アト秒パルスを作り出すことに成功した。またレーザー光からアト秒パルスへの変換効率を10倍以上改善し,かつ高品質な極端紫外光(XUV)ビームを得ることにも成功した。

具体的には,パルス幅が 500 アト秒の孤立アト秒パルスが発生していることが明確に確認された。これは自己相関法で決定された孤立アト秒パルスの時間幅としては世界最短パルスになる。得られたパルスエネルギーと時間幅から,開発された孤立アト秒パルスレーザの瞬間出力は 2.6GWと評価できる。この出力は,自由電子レーザ(FEL)技術で開発された光源と比較して10倍以上高い。また発生装置の大きさも卓上サイズで,XUV-FELの光源を普通車に例えると,今回開発された光源の大きさはラジコンカー程度と非常にコンパクトになった。

これにより,従来の孤立アト秒光源では難しかった,強い光と物質の相互作用研究にアト秒パルスを利用できるようになり,アト秒領域の超高速物理現象と非線形光学を組み合わせた未知の研究領域が拓かれるだけでなく,それらを利用して光学の分野に革新的な計測・解析技術や新しい粒子操作技術などがもたらされるものと期待できる。

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