理化学研究所と北京航空航天大学は、陽子数に対して中性子数が非常に多いパラジウム-128(128Pd:陽子数46、中性子数82)に、「特別な核異性体」があることを発見した。これは、陽子もしくは中性子数が魔法数の原子核に現れる特徴的な状態を示しており、この中性子過剰な原子核領域で中性子の数82が魔法数であることを証明した。
原子やその原子核を構成する陽子と中性子が主役のミクロ世界では、それらを構成する基本粒子がある特定のエネルギーで決まる軌道上を、量子力学の法則に従い整然と動いている。各軌道に入る粒子数は決まっており、軌道のエネルギー分布も一様ではなく疎密がある。粒子が密な一群の軌道を全て占有すると特に安定になり、その時の粒子数は「魔法数」と呼ばれている。
重い中性子過剰核で魔法数82が存在するかどうかを検証するため、国際共同研究グループは、世界最高性能の理研仁科加速器研究センター「RIビームファクトリー(RIBF)」を使い、大強度ウラン-238の核分裂反応により中性子数82近傍のRIを大量に生成した。RIの崩壊に伴い放出されるガンマ線を、欧州ガンマ線検出器委員会(EOC)が管理する大球形ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定したところ、128Pdと126Pdに100万分の1秒程度の寿命を持つ励起状態の“核異性体”を発見した。この核異性体の励起エネルギーと寿命を精査したところ、128Pdに現れた核異性体は魔法数を持つ原子核に特有の特別な状態であることが分かった。
「特別な核異性体」は、魔法数として中性子数50を持つモリブデン-92(92Mo:陽子数42)から、ルテニウム-94(94Ru:陽子数44)、パラジウム-96(96Pd:陽子数46)、カドミウム-98(98Cd:陽子数48)でも系統的に確認されており、これは、中性子魔法数82が重い中性子過剰核で消滅せず、魔法数のままであることを証明している。今後、重い中性子過剰核における魔法数の成因を探る上で大きな手掛かりになる。また、観測によって得られた太陽系における元素存在度をうまく再現できない「重元素生成量の不足問題」を解決するために約20年にわたり議論されてきた「中性子魔法数82の消滅に基づく元素合成のシナリオ」が破綻し始めていることを示唆している。
今回の成果は、理研のRIBFおよびRI寿命測定装置と、EOCが管理する大球形ゲルマニウム半導体検出器を組み合わせた国際共同核分光実験プロジェクト「EURICA(ユーリカ)」で実現した成果であり、同装置を用いる希少核種の核分光研究に弾みをつけるものである。
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