物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点ポスドク研究員の相川慎也氏,主任研究者の塚越一仁氏,統括マネジャーの生田目俊秀氏は,次世代のディスプレイを駆動するためのカギとなる画素スイッチング半導体を,新元素構成の酸化膜を用いて開発した。
フラットパネルディスプレイは従来,アモルファスシリコン薄膜やポリシリコン薄膜を使ってテレビやスマートフォンの画素スイッチの電界効果トランジスタが造られていたが,高精細化や高速動作化による高特性の半導体膜開発が強く求められている。現時点では,インジウム,ガリウム,亜鉛の混合酸化膜(IGZO)トランジスタは,電界効果移動度が高く有力な酸化膜半導体である。しかし,一般に高特性の酸化膜半導体を安定して効率的に生産する製造条件の調整が難しく,実際の生産での大きな問題となっており,薄膜形成には製造条件がより広い材料が開発されることが望まれている。
研究グループは,酸化インジウムに,酸化した金属(酸化チタン、酸化タングステンあるいは酸化シリコン等)を極微量添加し,薄膜が半導体として動作するための製膜条件の範囲を決める要因を初めて見出した。酸化膜が“結合かい離エネルギー”の小さな金属を含むと,酸素が薄膜から容易に離脱もしくは吸着して膜の伝導性が変わってしまう。たとえば,亜鉛は結合かい離エネルギーが極めて小さく,膜の加熱/冷却に際して酸素が容易に離脱もしくは吸着する。
これは,結合かい離エネルギーに着目すれば,酸化膜半導体の製造条件を制御できることを示唆している。実際に,酸化インジウムに結合かい離エネルギーの高い酸化シリコンを添加すると,製膜条件を広げることが出来ることを確認した。製膜後の熱処理においても,薄膜の伝導性の安定化を確認した。
今回の成果は,急激に普及が進んでいるスマートフォンでの電力の約半分近くを消耗するディスプレイの低消費電力化に有効なだけでなく,テレビの高精細化のための高周波数化に有効な技術として期待される。さらに,この研究で開発した薄膜では,広く亜鉛メッキ鋼板やゴムの加硫剤として多量に使われる“元素枯渇が心配なる亜鉛”や,高価なガリウムを使わないことで,貴重な資源を保全するだけでなく,激しい原料価格変動に惑わされずにフラットパネルディスプレイを製造できるようになる。
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