理化学研究所は、光合成を行う微生物「ラン藻」を遺伝子改変することにより、水素生産量を2倍以上に増加させることに成功した。
水素は二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーとして、広範な利用が期待されている。現在主流な水素製造法は、天然ガスや石炭を水蒸気と反応させる「水蒸気改質」だが、資源の枯渇が問題とされており、それらを使用しない製造法が求められている。その中で、生物による水素生産が注目され、特に光をエネルギー源として水から水素を生産する能力を持つラン藻が盛んに研究されている。しかし、実用化にはラン藻の水素生産能力を高めることが必要とされた。
過去の知見から研究グループは、RNAポリメラーゼシグマ因子の1つで、ラン藻の炭素とエネルギーのバランスを制御するタンパク質「SigE(シグイー)」が、水素生産に関与する可能性を見いだした。そして、遺伝子改変により細胞内でSigEのタンパク質量を増やすラン藻を作製、観察した結果、水素の生産量を2倍以上に増加させることに成功した。また、SigEタンパク質の増加に伴って、光合成の活性が変化すること、細胞の直径が約1.6倍増大することなど、細胞にさまざまな変化が起こることも明らかになった。
今回の成果は、藻類による水素生産の新しい基盤構築につながる。また、SigEはバイオプラスチックの生産を促進する因子でもあることが知られ、水素とバイオプラスチックの生産が同じ因子で制御されているという興味深い事実も明らかになった。今後、ラン藻の水素生産メカニズムの理解を深め、光エネルギーを利用したさらなる水素やバイオプラスチックの増産へとつながることが期待できる。
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