北海道大学電子科学研究所分子生命数理研究分野准教授の李振飈氏,教授の小松崎民樹氏らの研究グループは,例えば,開いているか/閉じているか,結合しているか/離れているか,といった有限個で連続的でない飛び飛びの値をもつ分子の時系列データから,分子の状態をネットワークという表現を用いて客観的に評価し,分子が将来取り得るデータ出力を予想する新しい解析手法を開発することに成功した。
研究グループは,分子の状態を(WWWや人の繋がりのネットワークなどと同じ)ネットワークという表現を用いて表し,分子の時系列データから,ネットワークを構成するノード(WWWではURL,人間社会では人)がどれくらいの数存在し,どのノードとどのノードが強くつながっているかを客観的に評価する数学的な手法を開発した。
考え得るすべてのネットワークにおいて,観測されたデータが保証していない情報がどれくらい組み込まれているかを定量化する新しい指標を案し,その指標を最小化する(データに忠実,かつ最も客観的な)ネットワークを時系列データから抽出するアルゴリズムを開発することに世界で初めて成功したもの。
研究グループは,手始めにこの手法を一分子酵素反応の一分子計測データの解析に適用した。その結果,反応する相手の基質分子の濃度に依存してネットワークが動的に変化することや,この研究成果で得られるネットワークを使うことによって,どのようなデータを取得すると正しいネットワークに最も近い答えを導き得るかに関する知見が得られることなどを明らかにした。
現在,この解析手法は,分子の時系列データからできるだけ客観的に分子の状態を同定し,分子が将来取り得る状態を予想するとともに,実際にデータを計測する実験研究者に対してデータ取得上の新たな指針の提案にも繋がるものとして期待されている。
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