基礎生物学研究所所長の岡田清孝前氏と研究員の爲重才覚氏らは、葉緑体ゲノムの働きが抑えられると、葉の表側組織の性質を決める遺伝子が正常なパターンで働かなくなり、葉原基内部で表側と裏側の性質を持つ細胞の分布のバランスが崩れて、葉の横方向への幅広い成長が妨げられていることを明らかにした。
研究グループは、遺伝子レベルでの研究に適したシロイヌナズナという植物を用い、葉原基が新たに生じるときに、葉原基の全ての細胞で裏側の性質を与える遺伝子(FILという遺伝子)が働き、表側の性質を与える遺伝子(PHBという遺伝子)の働きは抑えられていることを見つけた。
そして、その後の成長に伴って、表側の細胞が次々にFILの働きを抑え、反対にPHBを働かせるように切り替わってゆくことがわかりった。つまり葉原基の発達過程では、初めは全ての細胞が裏側の性質を仮に与えられ、次第に表側に位置する細胞から順次、遺伝子の働きを切り替えて表側の性質を獲得するという現象が起きていることを示している。
次に、葉緑体ゲノムの働きが抑えられた葉原基では、葉緑体の発達に異常があるだけでなく、細い形の葉へと成長する。そのような葉緑体ゲノムの働きが抑えられている葉原基では、表側の細胞でFILとPHBの働きが切り替わるのが遅れることを新たに見つけた。このことから葉緑体ゲノムの働きが異常になると、表側の細胞が適切なタイミングで表側の性質を獲得できず、表側と裏側のバランスが崩れて葉を幅広く展開できなくなると考えられた。
さらに、FILとPHBの働きの切り替わりが遅れることに、葉緑体の状態に応じて核ゲノムに属している光合成に関わる遺伝子の働きを制御するGUN1という因子が関わっていることも明らかにした。
この研究の結果から、葉緑体ゲノムの働き具合が、GUN1の関わる核ゲノムに属する遺伝子の発現制御の仕組みを介して、表側の細胞で表側の性質獲得に必要な遺伝子の発現のタイミングを決め、表裏を決める遺伝子発現のバランスを制御している、という仕組みがわかってきた。これは、単に光合成をする場所と思われがちな葉緑体が、葉の形を決める遺伝子の働きにも影響を与えるという点で、葉緑体機能の多面性を示す重要な知見。
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