基礎生物学研究所研究員の市川壮彦氏と准教授の野中茂紀氏らのグループは、理化学研究所、欧州分子生物学研究所(EMBL)との共同研究により、この基本的な体の構造が作られる時期のマウス胚を、生きたまま、今までにない高時間解像度で長時間観察することに成功し、この時期の細胞移動の様子を明らかにした。
欧州分子生物学研究所が開発したライトシート顕微鏡の一種であるデジタルスキャンライトシート型顕微鏡(DSLM)を基礎生物学研究所に導入した。
従来の蛍光顕微鏡では、広く使われている共焦点顕微鏡も含め、XY平面の画像1枚を得るために励起光を試料全体に照射するが、原腸陥入の時期のマウス胚は光照射に著しく弱く、撮影のための繰り返しの光照射によって死んでしまう。
DSLMでは、照射専用のレンズを用いて、シート状の励起光を側面から照射する。この方法だと、実際に観察したい部分以外には光が当たらないため、照射光の悪影響を最低限に抑えることができる。かつ、この方法ではサンプルの比較的深いところまで観察できる、一般的な共焦点顕微鏡に比べて高速で撮影できるというメリットもある。
DSLMはこれまでにもゼブラフィッシュ胚などの研究に使われてきた一方、マウス胚に使用するには試料の保持方法などの問題があったが、新たな手法を開発することでこの問題を解決し、マウス原腸陥入期胚を生きたまま丸ごと立体観察することに成功した。
さらに理化学研究所主任研究員の望月敦史氏、研究員の中里研一氏との共同研究により、観察によって得られた3次元+時間の大容量データから個々の細胞を追跡するソフトウェアを開発し、エピブラストの核と中胚葉細胞の運動パターンを解析した。
その結果,分厚い細胞シートをなすエピブラストの核が頂端-基底軸に添って細胞内を移動し頂端側で分裂する、いわゆるエレベーター運動がこの早い時期の胚でも起こっていることを確認した。核のエレベーター運動は神経上皮で見られる現象ですが、その意義については未だ明らかになっておらず、今回の知見がエレベーター運動の意義の解明に一石を投じる可能性がある。
さらに、中胚葉細胞を1細胞レベルで追跡した結果、その運動パターンは隣接する細胞と一緒に集団として移動するcollective migrationではなく、個々の細胞がばらばらに移動しながら、全体としては原始線条のある胚後方からも前方へ広がっていく移動様式をとることを明らかにした。
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