北海道大学大学院工学研究院教授の伊藤肇氏らは2008 年に発表した研究を発展させて新規の有機化合物「フェニルフェニルイソシアニド金錯体」を合成,さらにその結晶中で微小な刺激をきっかけとして次々と周囲の分子に構造変化が伝播していく現象を世界で初めて観測することに成功し,これを《分子ドミノ型増幅機構》と名付けた。
この結晶の内部構造の変化は「青」から「黄色」へと発光色の変化を伴うため,結晶の中で《ドミノ倒し》が広がっていく様子を視覚的に観察できる。一つの結晶には約 20 京個(一京は 10 の 16乗)の分子が含まれているため,分子一つを 1 枚のドミノ牌と考えると結晶の中では《世界最大のドミノ倒し》が繰り広げられているといえる。
医薬品や有機半導体の材料となる有機化合物の分子は,常に安定した状態を保っているわけではなく,比較的安定といわれる結晶の状態でも,光やガス,圧力などの刺激によって結晶の内部構
造を作っている分子の配列が変化してしまい,結晶の性質にも影響することが知られている。
こうした外からの刺激を原因とする医薬品や有機半導体の劣化は常々問題視されてきたが,結晶の内部構造の変化を観測することが困難という理由からほとんど研究が進んでいなかった。
この発見は分子レベルでの微細な変化も検出できる超高感度センサー材料の開発や,医薬品・有機半導体の性能劣化の防止にもつながるものと期待される。
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