福岡大学と理化学研究所は,膵島細胞移植の際におこる拒絶反応に対し,従来のレシピエントの免疫反応を制御する治療とは異なり,移植するドナー膵島を標的にした副作用のない画期的な治療法を開発した。
これまでに研究グループは,膵島細胞移植後の早期拒絶反応は,膵島細胞自身から細胞外に放出される核内タンパク質HMGB1が,免疫系NKT細胞や多形核白血球を活性化し,引き起こされることを解明してきた。
実際,HMGB1に対する抗体を投与することによって,移植膵島細胞の早期拒絶反応を回避することが可能となり,これまで糖尿病マウス1匹を治療するのに400個以上の膵島細胞が必要であったのに対し,100個の膵島細胞の移植で糖尿病が完治したが,移植された膵島からどのような機序でHMGB1が放出されるのかについては明らかになっていなかった。
今回研究グループは,移植膵島からのHMGB1放出のメカニズムと制御法を明らかにした。すなわち,移植直後の膵島は新たに血管ができるまで低酸素状態に曝され,そのことが引き金となり,膵島細胞膜に存在するNa+/Ca2+ 交換体(NCX)を介してカルシウムが細胞内に流入するため膵島細胞が障害され,それによってHMGB1が放出されることを見出した。
そこで,移植前に試験管内でドナー膵島細胞にNCX阻害剤を作用させ,NCXの機能をブロックした後に移植すると,カルシウムの膵島細胞内流入が阻止され,その結果として移植膵島障害は回避され,HMGB1は放出されず,移植後の早期拒絶反応が制御できることが明らかとなった。
今回見出された拒絶反応制御法は従来の免疫抑制剤のようにレシピエントに対する治療と異なり,移植するドナー膵島を標的にした副作用のない体に優しい新規治療法で,膵島移植による糖尿病治療に画期的進歩をもたらすと期待される。
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