分子研,光合成酸素発生反応の電子の振舞を量子アルゴリズムにより解明

自然科学研究機構分子科学研究所助教の倉重佑輝氏,准教授の柳井毅氏および米国プリンストン大教授のGarnet Chan氏らの研究グループは,高速量子アルゴリズムを用いることで,光合成酸素発生反応中心であるマンガンクラスタの電子の量子的振る舞い(波動関数)をほぼ完全解の精度で数値シミュレーションすることに成功した。

水の分解により酸素を作り出す酸素発生反応のメカニズムは,光合成の最大の謎の一つである。謎を解く鍵を握るのは反応の活性中心とされるマンガンクラスタの働きで,2011年に日本の研究グループによりその鮮明なX線結晶構造が明らかにされたことから,近年,反応メカニズムの解明に向けて急速な進展をみせている。

研究グループは今回,活性中心のマンガンクラスタ中の電子の振る舞いを量子力学方程式の解として精密に予測した。またその方程式の解から各マンガンイオンの酸化状態など電子の様子に関する基礎的知見を高い信頼性で明らかにした。各マンガンイオンの酸化状態は,水2分子から4個の電子を引き抜いて酸素を発生する能力と密接な関係にあり,酸化状態の特定は反応メカニズムの解明に極めて有力な情報を与えるもの。

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この研究では,分子を電子レベルの詳細さでコンピュータ上に再現する理論手法を用いた。電子運動の再現には量子力学が用いられ,量子の重ね合わせ状態をシミュレートする計算では100京(10の18乗)個という天文学的な数の自由度の情報処理を実現した。この高速計算は,研究グループで開発を行なってきた基盤的計算技術とソフトウエアにより達成された。

これらの成果は,光合成酸素発生反応のメカニズム解明に重要な知見をもたらし,今後の光合成研究そして人工光合成の実現に向け重要な指針になることが期待される。また,今回用いられた計算手法は,生体中の金属酵素の触媒作用を飛躍的な計算精度で解釈,予測するための強力な基盤技術となることが期待される。

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