理研ら,塗るだけできれいに配列する半導体ポリマーを開発

理化学研究所と高輝度光科学研究センターは,塗布型有機薄膜太陽電池で重要なエネルギー変換効率向上に欠かせない結晶性と配向性,さらに,印刷プロセスへ適用するための高い溶解性を併せ持った半導体ポリマーを開発した。

塗布型有機薄膜太陽電池では,通常,正孔を流す半導体ポリマーと電子を流すフラーレン誘導体を有機溶媒に溶かして混合し,この溶液を塗布して発電層となる膜を作る。ポリマーとフラーレンという異物が混在した状態では,ポリマーの結晶を成長させることが困難で,ポリマーの結晶性を向上させるためには,ポリマー同士が強い相互作用を持つ必要がある。

2012年に理研の研究チームは,2個のベンゼン環からなるナフタレンを基本構造に持つナフトジチオフェンとナフトビスチアジアゾールを組み合わせた半導体ポリマー(ポリマー1)を開発した。ポリマー1は分子同士の相互作用が非常に強く,フラーレンと混合しても結晶を形成する。しかし,高結晶性のため溶解性が低くなり,印刷プロセスを適用しにくいという課題があった。

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今回,研究チームはポリマー1のナフトジチオフェンに炭素12個が直列に並んだアルキル基を2本導入した(ポリマー2)。合成したポリマー2は溶媒への溶解性が格段に改善し,印刷プロセスへの適性も格段に向上した。また,大型放射光施設SPring-8でX線回折測定を行なったところ,ポリマー2はポリマー1と同様の結晶性を保つだけでなく,アルキル基を導入しただけで,ポリマーの配向が基板と垂直な方向を向いた「エッジオン(edge-on)」から,基板と平行な方向の「フェイスオン(face-on)」へと変化することも分かった。フェイスオンでは,電流が流れる方向とポリマーの向きがそろっているため,塗布型有機薄膜太陽電池で効率的な電荷輸送を行なうための理想的な配向状態といえる。

ポリマー2を用いた塗布型有機薄膜太陽電池を作製し評価したところ,電流密度は上昇し,ポリマー1では5%程度であったエネルギー変換効率は8.2%と著しく向上することが分かった。さらに,太陽電池材料の性能評価として広く使用されるモデル素子でも評価したところ,同様にポリマー2の電流密度は上昇,電荷移動度はポリマー1に比べて1桁高い値を示すことも確認した。つまり,フェイスオン状態による電荷輸送性の向上が,変換効率改善の大きな要因であると分かった。

今後,塗布型有機薄膜太陽電池により適した基本構造を持つ半導体ポリマーを開発し,そこにアルキル基を導入して最適化できると,大幅なエネルギー変換効率の向上が期待できる。また,このような分子の結晶・配向状態を制御するための分子設計・合成技術はさまざまな新機能発現につながり,デバイスに展開可能な新たな有機材料の開発にも貢献すると期待できる。

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