科学技術振興機構(JST)課題解決型基礎研究の一環として、名古屋大学 WPI トランスフォーマティブ生命分子研究所研究員の丸山大輔氏、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「東山ライブホロニクスプロジェクト」研究総括(名古屋大学 WPI トランスフォーマティブ研究所 教授)の東山哲也氏らは、植物が花粉管誘引を停止する仕組みを発見した。
丸山研究員らは、重複受精できない(通常1本の花粉管につき2つある精細胞が1つしか作られない)シロイヌナズナの変異体を利用して、重複受精と花粉管誘引停止の関係を明らかにした。変異体では花粉管の誘引を完全には停止できず、約30%の胚のうで複数の花粉管を誘引することが分かり、卵細胞あるいは中央細胞の受精はともに花粉管の誘引停止に関係しており、両方の受精がそろう(重複受精が成功する)ことにより誘引が完全に停止することが示された。
さらに、卵細胞と中央細胞では異なる制御メカニズムを持つと考えられ、この性質を応用することで、ある個体の花粉で卵細胞を受精させたのち、別の個体の花粉で中央細胞を受精させる「ヘテロ受精」を人為的に引き起こすことに成功した。
ヘテロ受精とは胚と胚乳が異なる遺伝子型を持つようになる受精の様式を指し、トウモロコシで80年以上前に報告されているが、これまでヘテロ受精がなぜ起こるのか明らかではなかった。本研究で、ヘテロ受精の背景に花粉管の誘引停止の仕組みが深く関わっていることが明らかとなっただけでなく、任意にヘテロ受精の種子を作り出すことが可能であることが示された。
今後、胚と胚乳の両者に異なる遺伝子を持たせ、両者を最大限に成長させる技術や、種間交雑の際の両者の不和を解消して新しい有用な植物の作出技術などにつながると期待される。
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