東京大学大学院医学系研究科助教の小田賢幸氏と教授の吉川雅英氏らのグループは、超低温電子顕微鏡などを用いて、鞭毛の外側のダイニンと内側のダイニンを繋ぐ役割をしているタンパク質ODA-IC2を同定した。さらに超高速度カメラ等による多角的解析から、このODA-IC2を遺伝子操作によって乱すと外側にあるダイニンは制御から外れて暴走し、内側にあるダイニンは逆に働きが低下することが分かった。
鞭毛は波打ち運動によって液体の流れを生み出す細胞小器官で、人間を含む多くの生物の細胞運動や発生に重要な役割を担っている。例えば人間の精子は、鞭毛を波打たせて泳ぐ。また、肺の気道では、吸い込んだホコリや病原体を外へ出すために、沢山の繊毛(鞭毛の一種)が粘液の流れを作っている。この様に体内で重要な役割を担っている鞭毛は、数千個のダイニンと呼ばれるモータ分子によって動かされている。鞭毛では多種多様なダイニン分子が働いているが、異なる種類のダイニンがどのように協働しているのか分からなかった。
これらの結果は、ODA-IC2が鞭毛の動きを制御する上で「司令塔」として働いており、そこに手を加えるとダイニン全体に影響が及ぶ急所であることを示している。今回得られた知見は、鞭毛運動の制御機構についての理解を深めるだけでなく、鞭毛が関わる不妊、呼吸器疾患、水頭症等の研究に貢献することが期待される。
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