物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点主任研究者の佐々木 高義氏、馬 仁志氏、MANA研究者の耿 鳳霞氏らの研究グループは、無機層状結晶があたかも生きた細胞のように水溶液中で100倍に及ぶ大きさにまで数秒で伸び縮みするという極めて珍しい現象を発見した。
層状チタン酸化物などの無機板状結晶が、アミノ基とヒドロキシ基を両端に持つ有機化合物の希薄水溶液を作用させると、層の重なり方向に100倍の長さまで1~2秒でアコーディオンのように伸びることを見いだした。驚くべきことにひものように伸びた結晶は分割されることなく、安定に存在し、酸を加えることにより、数秒で元の状態に戻ることが分かった。用いた層状結晶は厚さ1ナノメートル弱の層が3000枚前後積み重なった構造を有しているが、層と層の間隔を100倍にも膨らませる大量の水が瞬時に出入りし、かつその過程で層がバラバラにならず、一体として振る舞うことを意味している。この驚異的な現象は層と層の間に取り込まれる水が特殊な状態を有していることを暗示しており、実際理論計算により、希薄に存在する有機化合物が起点となって、水分子の強靭な水素結合ネットワークを誘起し、安定化することが示唆された。
本研究成果は現在ホットなトピックスとなっている2次元物質(グラフェン、ナノシート)の合成プロセス(層状化合物の単層剥離)の理解の増進、制御性の向上につながり、高品位のナノシートを高収率で合成することに道を拓くことになると期待される。また生命現象などの重要なファクターとされながら、いまだ謎が多い狭い空間に閉じこめられた水の特異な挙動の理解に光を当てることになると期待される。
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