東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学分野教授の渋谷健司氏、大学院生の野村周平氏らは、東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任教授の上昌広氏ら、南相馬市立総合病院と共同で、福島第一原子力発電所の23km圏に位置する福島県南相馬市内5つの老人介護施設の協力のもと、事故後の避難による高齢者の死亡リスクの推定と、避難プロセスにおける死亡率上昇要因の分析を試みた。
研究グループは、5つの老人介護施設について、避難を経験していない震災前過去5年間と避難期間を含む約1年間の高齢者死亡率の比較を、数理モデルを用いた回帰分析と各施設長および介護士らへのインタビューという二つの手法を用いて実施した。避難回数・距離・数値化しづらいケアの状況等を考慮した、施設ごとの死亡リスクが議論されたのは今回が初めてである。
結果として、避難後の死亡率は避難前に比べて、全体で2.7倍に増加したことがわかった。ただし、避難後の死亡率の変化には、施設によってばらつきがある。避難プロセスや施設のケア状況に関する分析により、長距離の移動による身体的負担以上に避難前の栄養管理や避難先の施設のケア・食事介護への配慮が重要であること、初回の避難による死亡リスクは二回目以降の避難よりも高いことなどが示唆された。
今回の成果により、事故直後の避難は必ずしも最善の選択ではなかった可能性が見えてきた。高齢者の避難は生死に関わる問題であり、今後の災害時には避難のリスクについても検討する必要があることが強く示唆された。
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