科学技術振興機構課題達成型基礎研究の一環として,筑波大学 数理物質系准教授の丸本 一弘氏は,高分子太陽電池に光を照射して蓄積する電荷の状態を解明し,それが特性の劣化と明らかな相関があることを,世界で初めて観測した。
有機薄膜太陽電池の一種である高分子太陽電池は,現在主流のシリコン系太陽電池(変換効率20~25%)よりも低コストで軽く,柔軟性のある次世代太陽電池として注目されており,最近では,変換効率も11%まで向上し,実用化が期待されている。これまで,高分子太陽電池に光を照射すると,酸素や水分がない状態でも,太陽電池の素子の特性が劣化することが知られており,これは,素子内部に蓄積された電荷が原因と考えられてきた。しかし,これまでの電気的測定などの手法では電荷が蓄積した場所を特定することはできず,また,電荷の蓄積と特性劣化との相関も証明されていなかったため,高分子太陽電池の耐久性向上の手がかりがつかめなかった。
今回,電子スピン共鳴(ESR)法と専用の疑似太陽光照射光源を用いて,実際に太陽電池を駆動させる同じ条件下で蓄積された電荷の数を精密に測定し,さらに太陽電池特性を同時に計測する手法を開発。この計測の有利な点は,電荷が蓄積した場所を分子レベルで解明できるだけでなく,電荷の蓄積と特性の劣化との相関を,素子を駆動したままリアルタイムで高精度に直接測定できる。その結果,高分子材料中に電荷が蓄積され,蓄積量が多くなるほど劣化するという明らかな相関があることも分かった。
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