東京農工大学は,有機化合物合成の基本となる「炭素―炭素結合」を作るディールスアルダー反応をわずかな電気エネルギーで効率的に引き起こすことに成功した(ニュースリリース)。
1950年のノーベル化学賞の受賞対象となったディールスアルダー反応は,半世紀以上前に発見された化学反応でありながら,有機化合物の基本となる「炭素-炭素結合」を作るための有力な手法として現在でも幅広く用いられている。
この化学反応は出発原料に含まれる原子が全て目的とする生成物に組み込まれるため,「原子の無駄(アトムエコノミー)」が全くない。しかし,この化学反応に使える出発原料は限られており,この限界を突破しようとする試みが幅広く研究されてきた。
ディールスアルダー反応を含め,多くの化学反応には「きっかけ」として毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒が必要となる。ディールスアルダー反応においても特別な試薬や触媒を用いる研究例が報告されてきたが,より安価で環境に優しい手法が必要とされている。
研究では,毒性の高い試薬や高価な触媒の替わりに,乾電池(1.0-1.5V)程度の電気エネルギーをかけることで効率的にディールスアルダー反応を引き起こすことができるようになった。さらに,必要な電力量もごくわずかで済むことから,環境に優しい持続可能な化学反応が実現できるという。
毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒を用いない「グリーンかつクリーンな」ものづくりへのニーズは,今後ますます高まると予想されている。この研究の成果を活かし,今後はディールスアルダー反応をさらに発展させていくだけでなく,環境に優しい新たな化学反応の開発に繋がることが期待できるとしている。
関連記事「阪大ら,ニッケルナノ粒子による炭素結合を達成」「理研,ベンゼンの「炭素-炭素結合」を室温で切断することに成功」