東大,レーザー電場無しで気体分子の配向制御に成功

東京大学の研究グループは,通常ランダムな気体分子の向きをレーザー電場の存在しない条件下で,頭と尻尾の向きも区別しつつ3次元的に配向制御することに初めて成功した(ニュースリリース)。分子の頭と尻尾も区別した3次元的な配向制御は,気体分子の空間的な向きに関する完全配向制御を意味する。

気体分子は一般に異方性をもつが,ランダムな向きの分子試料を用いた実験では,試料分子の異方性に起因する効果は平均化されてしまう。したがって,化学反応の立体ダイナミクス研究や分子内電子の立体ダイナミクス研究では,配向した試料分子を用意することが不可欠となる。

近年進展が著しい高強度レーザー電場を用いた気体分子の配向制御技術の開発においては過去10年余にわたり,同研究グループがリードしてきた。しかし,気体分子の空間的な向きの完全配向制御に相当する3次元的な配向制御をレーザー電場の存在しない条件下で実現することはできていなかった。

今回,研究グループが蓄積してきた実験技術を集大成し,レーザー電場の存在しない条件下で気体分子の完全配向制御に初めて成功した。

具体的には,弱い静電場と楕円偏光した高強度ナノ秒レーザー電場を併用して気体分子を3次元配向する手法に,研究グループが独自に開発したプラズマシャッター技術を用いて高強度ナノ秒レーザーパルスを立下り150fsの超高速で遮断することにより,レーザー電場の存在しない条件下で気体分子の完全配向制御に初めて成功した。

分子偏向器で初期回転量子状態を選別した分子試料を用いることにより,応用実験に使用するのに十分な高い配向度も実現した。

完全配向制御された分子試料を化学反応の立体ダイナミクス研究や分子内電子の立体ダイナミクス研究などの試料として用いることにより,分子の異方性に起因する様々な現象における配向依存性を明らかにすることができるという。

また,近年分子科学分野で実現が期待されている「分子ムービー」を実現するための試料としても最適だとしており,この研究が将来的にDNAの放射線損傷のメカニズムの解明や光化学反応を用いた創薬に発展すると期待している。

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