産業技術総合研究所(産総研)は,アモルファス材料などの不規則な原子の並び方を簡単に表記できる数理的手法を開発した(ニュースリリース)。
トランジスタやメモリーなどの絶縁膜や太陽電池の透明電極などに用いられるアモルファス材料の原子配列を,人間が直感的に理解できる簡潔な記号で表現できれば,材料の構造と機能の関係をより深く知ることができるようになり,用途に応じて材料の化学組成などを合理的に設計することができると期待されている。
アモルファス材料などの不規則原子配列を計算機で取り扱い,材料設計を容易にするためには,対応する多面体タイリングを簡潔に表現する数理的な手法が必要となる。
多面体の研究は4000年以上の長い歴史をもつが,その多くが対称性の高い多面体や多面体タイリングを対象としており,対称性のないものも含めて無限に存在する多面体や多面体タイリングを,一貫した方法で簡潔に表現する数理的手法はこれまでなかった。そのため,アモルファス構造の理解を深めるためにも不規則構造を表現するための数理的手法が求められていた。
アモルファス材料の構造は,ボロノイ多面体が複数組み上がった構造として表現することができる。研究グループは今回,「パーツを組み合わせる」というアプローチでアモルファス材料を表現しようと考えた。多面体は複数の多角形の組み合わせで作ることができるが,その多角形の組み合わせにある規則を発見し,その規則を利用して多面体を数列(多面体コードワードという)で表す理論を創出した。
さらに,多角形というパーツを組み上げて多面体を作るという考え方を拡張すると,複数の多面体を組み上げることによって多面体タイリングを作り上げることができる。この観点から今回創出した理論を拡張すると,多面体タイリングを多面体コードワードの並び(多胞体コードワードという)で表すことができるという。
多角形,多面体,多面体タイリングは階層構造をとる。この階層構造に着目することで,多面体タイリングを表現する数理的理論を構築し,多面体タイリングを人間が容易に理解できると同時に計算機でも取り扱いやすい形で表現することができた。
今回の理論では,最初に,多面体を再現するために必要となる可能性のある情報をすべて多面体コードワードに記録する。その後,記録した情報の必要性をチェックして,不必要な情報を取り除く。記録した全ての情報について,必要性のチェックを繰り返すことで,これまでの手法よりも短いコードワードで多面体を表現できる。
今回の研究は,アモルファス材料などの不規則原子配列を人間が理解できるように記述すると同時に,計算機でも取り扱いやすくすることを目的に行なったが,その結果として得られた理論は,材料開発だけではなく,学術的な観点からも有用で応用範囲も広いという。
例えば,この理論を応用すると3次元の多面体だけではなく,より複雑な高次元の立体を系統的に記述できる。また,今回の理論を用いることで,複雑な構造を持つデータを計算機で効率的に取り扱えるなど,他の技術分野への波及効果も期待できるとしている。
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