東大ら,50テスラまで維持される2次元超伝導状態を発見

東京大学の研究グループは,京都大学,東北大学と共同で,原子膜材料である二流化モリブデン(MoS2)の電気二重層トランジスタ(EDLT)構造において,MoS2表面に誘起される原子1層分の厚さの極めて薄い2次元超伝導体が,層に平行な方向の磁場に対して極めて強い耐久性を示すことを発見した(ニュースリリース)。

さらに,第一原理に基づく理論計算により,この超伝導体では超伝導電子対のスピンが層に対し垂直方向に固定されている,前例にない特殊な超伝導状態が実現していることを初めて実証した。

研究グループは,原子膜材料の一種である層状物質・二硫化モリブデン(MoS2)の高品質な単結晶を用いて,電界効果トランジスタの一種であるEDLT構造を作製しした。

この構造では,超強電界によって誘起された電子の集団がMoS2の単結晶表面に蓄積できるため,原子層1層分の厚さの,極めて薄い,究極の2次元超伝導を人工的に実現することが可能。

研究では,この極薄の2次元超伝導体の磁場への耐久性を調べるために,約55テスラの超強磁場中における超伝導転移現象を電気抵抗測定により調べた。55テスラという磁場は,市販のネオジウム磁石(約0.5テスラ)の100倍以上の大きさに相当する。

測定の結果,極低温領域の1.5ケルビン(マイナス271.7℃)において,原子層に平行方向の臨界磁場(超伝導が維持できる磁場の最大値)は52テスラまで上昇することを発見した。これは従来型の超伝導体を仮定した場合の理論的予測値(常磁性極限またはパウリ極限と呼ばれる値)の4倍以上の大きさになる。

研究グループは,さらに第一原理に基づく電子状態の理論計算,およびその計算結果を用いた臨界磁場の理論的導出を行なった結果,この超伝導体では,MoS2単層結晶構造の特殊性である面内の反転対称性の破れと相対論的効果により局所的な内部磁場が発生し,超伝導電子対のスピンが,面直方向に強く固定されていることを突き止め,これが原因となって外部磁場に対して極めて強いことを明らかにした。

これは世界的にも前例にない特殊な超伝導状態がMoS2薄膜で実現していることを示している。

この研究成果は,対称性が破れた2次元電子系における新奇超伝導という新たな学術分野を切り開く礎となるだけでなく,強磁場に対して極めて安定な超伝導材料を開発するための新機軸となることが期待されるとしている。

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