理研ら,放射線損傷を避けたタンパク質解析に成功

理化学研究所,大阪大学,高輝度光科学研究センターらの共同研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」のX線レーザーを用いた「連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)」と呼ばれる手法により,タンパク質が持つ硫黄原子を利用した結晶構造の決定に成功した(ニュースリリース)。

SACLAのX線レーザーを用いたSFXでは,これまで課題だった試料の放射線損傷が起こることなく,マイクロメートル(μm)サイズかそれ以下のタンパク質微小結晶でも立体構造が決定できる。

一般にX線結晶構造解析では,タンパク質立体構造を決定する際に,類似構造のタンパク質モデルを利用する。しかしながら,類似構造がないタンパク質の場合は,水銀,白金等の重原子を結合させたタンパク質の結晶を用い,その重原子からの異常分散効果を利用して構造を決定する。

最近では,タンパク質重原子化の手間を除くため,重原子の代わりにタンパク質の持つアミノ酸の「硫黄原子を利用した単波長異常分散法(S-SAD法)」が用いられている。しかしながら,十分な大きさの結晶が得られない,また著しく放射線損傷を受けるタンパク質では,SPring-8のような大型放射光施設のX線を利用してもS-SAD法により構造を決定することは困難だった。

今回,共同研究グループは,これまでに開発した少量の試料でさまざまなタンパク質の回折実験が行なえる手法「グリースマトリックス法」を用い,リゾチームタンパク質の硫黄原子を利用した構造決定に成功した。

従来のジェットインジェクターを利用したサンプル供給では,構造を決定するために10~100mgのタンパク質が必要だったが,グリースマトリックス法では低速でサンプルを流すことができるため,その結果として1mg以下のサンプル量での構造決定が可能。研究ではこのグリースマトリックス法を用い,測定波長1.77オングストロームで,サイズ約7~10μmのリゾチーム結晶から,回折分解能2.1Åの回折データを収集した。

6時間程度の測定時間で構造解析に利用できる180,000枚の回折イメージを収集し,そのうち150,000枚のイメージを用いることでS-SAD法によるリゾチームの結晶構造の決定に成功した。これにより,SACLAのX線レーザーとグリースマトリックス法を使うことで,タンパク質が持つ硫黄原子からの異常分散シグナルを利用する,S-SAD法による構造決定に十分な精度の回折イメージを収集できることを実証した。

今後,結晶サイズ,放射線損傷の問題からこれまで構造決定が困難であったタンパク質でも,SACLAを利用したS-SAD法により構造決定が可能になる。また,創薬ターゲットとなる様々なタンパク質の構造解析への適用が期待できるとしている。

関連記事「京大ら,XFELによるタンパク質の構造決定に成功」「理研,マイクロ秒レベルのタンパク質観察法を開発」「理研ら,微小で薄いタンパク質結晶の電子線構造解析に成功