東京工業大学大学院理工学研究科の研究グループは,リチウムイオン電池の充電・放電原理を用いることにより,チタン酸リチウムの超伝導状態制御(スイッチング)に成功した(ニュースリリース)。
研究グループは,リチウムイオン電池の動作原理に着目し,超伝導制御をリチウムイオンの移動で行なう新たな電子デバイス原理の提案・実証を行なった。まず高品質なチタン酸リチウム薄膜を作製し,その薄膜を負極としたリチウムイオン電池構造を形成した。この電池に対し,充電・放電操作を行ない,同時にチタン酸リチウム薄膜の電気抵抗を測定した。
その結果,超伝導状態のチタン酸リチウム薄膜にリチウムイオンを挿入する充電反応を行なうと,常伝導状態への転移が観測された。一方,チタン酸リチウム薄膜からリチウムイオンを脱離する放電反応を行なうことで,超伝導状態を回復させることに成功した。
また,充電・放電操作前後での超伝導転移温度を比較したところ,両者が完全に一致しており「可逆的な超伝導転移」であることを発見した。この超伝導転移は,充電・放電サイクルを繰り返しても安定に発現する。すなわち,「超伝導・常伝導」状態を「On・Off」とする超伝導デバイスへとつながる成果。
超伝導体は核磁気共鳴画像法(MRI)により医療分野で活躍し,送電ケーブルやリニアモーターカーなどへの応用が期待される重要な技術。この超伝導現象を電子デバイスへと適用する超伝導エレクトロニクスに関しても,実用化に向けた研究が行なわれている。
超伝導状態と常伝導状態のスイッチングには,非常に多くの電子が必要となる。しなしながら,超伝導状態を制御できるほどの電子をそのまま扱う基盤技術が存在せず,実用化への道のりは遠いと考えられている。そのため,この超伝導状態を制御可能なスイッチング手法の開発が強く望まれていた。
そこで,今回の研究では電子とイオンをペアで扱うリチウムイオン電池に着目。イオンを同時に移動させることで,従来よりも遥かに多くの電子を超伝導体に与えることができると考えられるという。
今回の結果は,リチウムイオン電池の充電・放電現象を用いて超伝導状態が制御できることを実証したもの。今後は,セル構造の小型化や全固体化などを進め,超伝導エレクトロニクス実現へ向けた応用研究へと進展させるとしている。
関連記事「東北大ら,高温超伝導体の謎をX線レーザーで解明」「東北大,超伝導物質の薄膜化技術を確率」「大阪府大,フォトリソに対応した超伝導膜を開発」