大阪府立大学は,超伝導転移温度が27K(約-246℃)と従来型の超伝導素子材料よりも高い超伝導転移温度を示す2ホウ化マグネシウム(MgB2)のエピタキシャル膜を,110℃の従来にない低温で成膜することに成功した(ニュースリリース)。
従来の超伝導素子は4.2K(約-269℃)程度の極低温まで冷やさなければ動作せず,冷却に大掛かりな装置や高価な寒剤が必要だった。今回,研究チームは27K(約-246℃)で超伝道転移を示すMgB2薄膜の成膜に成功したが,20K(約-253℃)程度の冷却であれば必要な装置を大幅に簡略化でき,コストの削減,省スペースが達成される。
MgB2薄膜を利用した超伝導素子の研究はこれまでも行なわれてきたが,成膜に250℃~800℃の高温が必要とされていた。MgB2素子の応用にはMgB2の微細加工が必要で,これまでは物理的エッチングを用いてきたが,加工により超伝導の性質が劣化する問題のほか,高度な機能化のために積層構造を構築することも困難だった。
今回,研究グループはマグネシウム(Mg)層を下地層として採用することで,その上にMgB2層を成膜するために必要な温度を110℃まで大幅に低下させることに成功した。この新技術により,標準的なレジストを用いたリフトオフプロセスが可能となるMgB2薄膜の成膜を実証した。
得られた膜は27Kで超伝導転移を示した。超伝導転移により抵抗は急激に減少し,およそ0.8Kの温度幅でゼロ抵抗に達した。また,X線による構造解析からMgB2膜は優れた結晶性を示すエピタキシャル膜であることが分かった。これは新開発の膜が従来にない低温での成膜にも関わらず,良好な超伝導性と結晶性を持っていることを示している。
この技術により,半導体等で広く普及している一般的なフォトリソグラフィを用いて,MgB2 の微細構造や多層構造の作製がどこでも簡便に安価に行なうことが可能となり,MgB2の飛躍的な普及につながるとともに,MgB2 薄膜での超伝導素子の応用に大きく道が開かれることが期待される。また,国が進める水素化社会で一層の活用が見込まれる液体水素での冷却でも実用化できるとしている。
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