京大ら,霊長類の特定の脳神経を光で活性化

京都大学と筑波大学の研究グループは,複雑に絡み合った脳神経回路において,ターゲットとする回路だけを光照射によって選択的に活性化させることに霊長類で初めて成功した(ニュースリリース)。パーキンソン病やうつ病などのより効果的な治療法の開発に期待される成果。

ヒトやサルの脳は,1千億を超える神経細胞が複雑に絡み合った神経回路をつくり,高次脳機能を生み出している。精神・神経疾患の病態を理解するためには,この高次脳機能のメカニズムを明らかにするとともに,特定の神経回路のみを標的にし,その機能を操作する技術が必要となる。

また,ヒトの脳疾患では,特定の神経回路の異常によって引き起こされる疾患も多く知られているが,このような疾患の治療にも,特定の働きをしている神経回路の機能を調節することは有用となる。

近年,光遺伝学の進歩により,マウスやラットなどのげっし類ではこのような操作が可能となったが,高度な脳機能を持つ霊長類でターゲットとする神経回路の神経活動だけを高い時間精度で調節することはこれまで不可能だった。

今回,研究グループは,目を動かす役割を持つ神経回路網に注目し,この回路網の中で前頭眼野と呼ばれる皮質領域から,中脳に存在する上丘と呼ばれる領域への神経路(前頭眼野-上丘回路)を,光遺伝学を利用して選択的に活性化することに成功した。

研究では,まずウイルスベクターを用いて光により神経細胞を活性化させるイオンチャネル(チャネルロドプシン2)を前頭眼野の神経細胞に発現させ,オプトロード(光ファイバーを取り付けた記録電極)をその投射先の一つである上丘に刺入し,チャネルロドプシン2を発現した前頭眼野の神経細胞の軸索末端を光刺激すると,上丘の神経細胞の神経活動の上昇が確認された。

これは前頭眼野の神経細胞の軸索末端が光刺激によって興奮して神経伝達物質を放出し,伝達物質を受容した上丘の神経細胞がその活動性を増大させたものと考えられる。この結果は,研究グループが用いた手法によって,前頭眼野-上丘回路を選択的に活性化させることに成功したことを示すもの。

次に,研究グループは,光刺激による前頭眼野-上丘回路の選択的な活性化が眼球運動に与える影響をサルを用いた実験で調べた。その結果,これまで不可能であった,霊長類の複雑な脳神経回路の中でターゲットとする神経回路の神経活動だけを制御する技術の開発に成功した。また,この技術を利用することで、霊長類の眼球運動を制御するメカニズムの一端を明らかにした。

今回霊長類における応用に成功した手法は,複雑に絡み合う霊長類の神経回路から特定の神経回路を取り出し、適切なタイミングでその回路の活動を操作・調節できるもの。この手法は,霊長類で高度に発達した脳機能のメカニズムの解明や,その破綻としてのさまざまな精神・神経疾患の病態の解明に役立つと考えられる。

また,狙った神経回路の活動を適切なタイミングで調節することのできるので,パーキンソン病やうつ病などの治療で用いられる脳深部刺激療法を,特定の神経回路をターゲットにおこなうことが可能となり,より効果的な治療法の開発につながると期待さ
れるとしている。

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