NTTら,誤り率監視の不要な量子暗号実験に成功

日本電信電話(NTT)と東京大学は共同で,光子伝送の誤り率監視を行なうことなしに安全性を確保する量子暗号を世界で初めて実現した(ニュースリリース)。

近年,通信のセキュリティを確保する究極の技術として,量子力学の原理に基づき秘匿通信を行う量子暗号が注目を集めている。量子暗号は、光の量子力学的状態(量子状態)に暗号鍵をエンコードして送信する量子鍵配送(quantum key distribution: QKD)によって2者間で共有した秘密鍵を用いて暗号通信を行なうもの。

QKDにより送信された暗号鍵は量子力学の原理に基づき安全であるため,将来いかに技術が進展しても安全な通信を行なうことができる。QKDは,既に欧州や日本で大規模なネットワーク実験が行なわれ,これを用いたTV会議のデモがなされるなど,既に実用に近い技術に成長しつつある。

従来のQKDは,「情報を読むと量子状態が乱れてしまう」というハイゼンベルクの不確定性原理(以下不確定性原理)によりその安全性が守られている。一方QKDは,盗聴を監視するために誤り率を常に観測する必要があったが,その安全性が不確定性原理によらず,波束(量子状態)の収縮に基づく新しい原理のQKD方式であるRRDPS方式が提案されており,誤り率監視の不要なQKDとして検証が待たれていた。

RRDPS方式は,漏洩しうる情報量がはじめから一定の値に抑えられていることを特長とするQKD方式。具体的には,RRDPS方式においては,複数の光パルスに光子が存在しうる量子状態を用いて暗号鍵を伝送するが,漏洩する可能性のある情報量は光パルスの数のみにより決定され,誤り率に依存しない。

よって,使用した光パルスの数から決まる盗聴の可能性のある鍵の量に応じて,光子伝送により得られた鍵を圧縮することで,誤り率を監視することなく安全鍵を生成することができる。

今回得られた成果を用いることで,QKDシステムにおいて送信者と受信者の間でテストビットを用いた定期的な誤り率の監視を省略することができるため,QKDシステムにおける送受信者間の制御情報の簡略化と,生成された鍵をテストビットとして消費しないことによる鍵生成の効率化を実現できる。

またこの成果は,不確定性原理によらずに全く新しい原理でどんな盗聴に対しても安全な鍵配送ができることを世界で初めて証明した実験であり,QKD研究の新たな展開を促すことが期待されるとしている。

NTT研究所では,RRDPS方式の次世代のQKD方式としての可能性を探るべく,NTT研究所の強みである光導波路技術を用いて,100程度の遅延時間を任意に選択できる総当たり位相差測定を実装し,性能向上を図るなどの基礎研究を行なっていく。

また,東京大学では,ImPACT研究開発プログラムの一環として,今回実証された新原理に基づく量子暗号方式が潜在的に持つと考えられる,短いセッションでの高効率性,雑音に対する耐性などの特性を追求し,量子セキュアネットワーク構築を目指すとしている。

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