芝浦工業大学は,脳神経の動きをモニタリングする新たな手法を開発し,アメフラシ(軟体動物)の脳神経の伝達活動を一度に可視化することを可能とした(ニュースリリース)。
人の脳内メカニズムを解明するためには,複数の神経活動が伝わっていく様子を捉える必要があるが,情報の伝達速度が非常に速いなど,正確に動きを捉えることは難しかった。
研究グループは,神経活動の動きを捉えるためには,他の生物と比べて極めて大きな神経細胞を脳に持ち,神経の役割とその位置関係が特定されているアメフラシが適していると考え,研究を進めてきた。
神経伝達の信号が伝わる様子を計測する方法としては,複数の神経細胞の活動電位を検出する「膜電位イメージング」が存在しているが,活動電位の発生から消えるまでの時間が非常に短く,正確に捉えられないという問題があった。
そこで,脳神経が活動する際に,ナトリウムを取り込み,カリウムを放出する仕組みに着目。アメフラシにカリウム放出の動きを鈍らせるテトラエチルアンモニウムクロリドを投与し,神経の伝達活動の速度を抑制した。
まず,アメフラシの味覚認識を司る神経節を蛍光色素で染色した後,アメフラシが好むワカメと,嫌いなテングサをそれぞれ与えて味覚を認識させると,脳内の特定部位が活動し,しかも,好きな味覚に比べ,嫌いな味覚への活動はより速く活動が始まることが解った。
さらに,好きな味覚を与えた後に電気ショックを与える実験を繰り返すと,嫌な経験を学習することよって,好きと認識していた味を「嫌い」と脳が認識することも確認した。
研究グループは今後,物事を認識する際に脳内を神経信号がどう伝わっていくのかの伝達メカニズムと,経験により認識が変化していく学習のメカニズムを明らかにしていく。
脳内の神経伝達による認識と学習のメカニズムの解明を進めることで,単なる動物のみならず人の味覚障害や目,耳の不自由な人それぞれの症状に合わせた人工感覚器の開発,認知症や鬱病など神経系の疾病の新たな治療法などへの応用が期待されるとしている。
関連記事「東大,神経活動を可視化する超高感度赤色カルシウムセンサを開発」「カリフォルニア大,学習中の大脳皮質の神経活動を可視化することに成功」「東大他、脳内の神経信号の伝播速度を可視化」