2015年7月10日,日本大学会館・大講堂(東京都千代田区)において「8K映像技術で医療を変える」をテーマとする医工連携国際シンポジウムが開催された。
8K技術に関する国際シンポジウムとしては初めての開催となり,約300名の参加者が集まった。シンポジウムは日本大学・学長の大塚吉兵衛氏の挨拶で開会。来賓として総務省情報流通行政局・官房審議官の渡辺克也氏が8Kの概要と今後の展望を交えて祝辞を述べた。
その後,講演に移り,「ロンドンオリンピックにおける8Kスーパーハイビジョン」をテーマにBBC Research & Dvelopment South LabのJohn Zubrzycki氏が登壇。続いて,「8Kスーパーハイビジョンの技術動向」をテーマに,愛媛大学・教授の藤田欣裕氏が講演し,8K技術の研究・開発の変遷を語った。
次に,「8K医療用ディスプレイと8K遠隔医療を実現するフォトニクスポリマー技術」をテーマに慶応義塾大学・教授の小池康博氏の講演が行なわれたが,三菱鉛筆と共同で開発中というプラスチックオプティカルファイバ(POF)の現状の成果を発表した。
また,「動画技術における解像度の増加:過去,現在,未来」をテーマにTechnology Consultant,SchubinCafe.comのMark Schubin氏が,「SPIEが期待する8K技術の医療への応用」をテーマにSPIE・CEOのEugene G.Arthurs氏がそれぞれ講演を行ない,午前の部は終了した。
午後のセッションでは開始前,内閣総理大臣補佐官の衛藤晟一氏が登壇し,8K映像技術について,政府としても強力にバックアップしていく意向を明らかにした。午後のセッションは8K映像技術の医療応用に関する講演が中心となり,「8K映像技術の医療応用と課題について」をテーマに日本大学・准教授の山下紘正氏,「高精細画像と内視鏡手術」をテーマに杏林大学・外科教授の森俊幸氏,「超音波画像の8K高精細化の試み」をテーマにMU研究所・代表取締役社長の望月剛氏,「再生医療の現状と展望」をテーマに国立成育医療研究センター・副所長の梅澤明弘氏,「8Kを用いた眼科顕微鏡手術の観察:予報」をテーマに眼科三宅病院・理事長の三宅謙作氏がそれぞれ講演を行なった。
8K技術を使っては,8Kカメラを搭載した硬性内視鏡による動物手術の実証実験が行なわれており,眼科手術においては既に数件の臨床が行なわれている。医療分野でも8K技術の有効性を示す一方,カメラのサイズや光学系,照明,ディスプレイ側において開発・改良すべき課題も浮き彫りになった。
閉会の辞を述べたSPIE・会長の谷田貝豊彦氏(宇都宮大学オプティクス教育研究センター・センター長)は,8Kという大容量映像情報のアーカイブとして期待されるホログラフィックメモリの研究・開発の現状にも触れた。シンポジウムの終了後は懇親会が開かれ,終始和やかに雰囲気に包まれた。
今回のシンポジウムは,参加者にとって8K技術の進展,さらに今後の製品化や事業化,実利用につなげられるかを推し測ることができるものになったと考えられる。NHKが主導する8K映像技術だが,ひいては日本が先導する技術となる。2020年には実放送が予定されており,政府もバックアップしていくことを明らかにしていることから,今後の8K技術の産業化の行方に注目したいところだ。