東大ら,超伝導量子ビットと磁石のコヒーレント結合に成功

東京大学の研究グループは,理化学研究所との共同研究により,超伝導回路を用いた量子ビット素子と強磁性体中の集団的スピン揺らぎの量子であるマグノンとをコヒーレントに相互作用させることに初めて成功した(ニュースリリース)。ミリメートルサイズの磁石の揺らぎが量子力学的に振る舞うこと,その揺らぎの自由度を制御する方法を明らかにした。

我々の身近に存在する磁石の中では,多数の電子スピンが秩序をもって配向することにより大きな磁力が生み出されている。電子同士の相互作用が非常に強いため,単独の電子スピンが反転することは容易ではないが,多数のスピンが集団として一斉に微小な角度をもって歳差運動することはできる。

この現象は強磁性共鳴振動として古くから知られているが,熱揺らぎの影響を排除した極限(量子極限)における振る舞いはこれまで調べられていなかった。

研究グループは,典型的な強磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)単結晶球を用いて実験を行なった。直径1mmのYIG球中では,およそ1019個もの電子スピンが強い交換相互作用により同じ方向を指して高密度で整列している。

このスピンの集団における熱揺らぎは,整列したスピン全体が調和しながら運動するエネルギー励起であり,その運動の量子をマグノンと呼ぶ。

YIG結晶は,長いマグノン励起寿命と,光の偏光が磁化に対応し変化するという磁気光学効果を有し,さらに通信波長帯などの赤外光領域で吸収が小さく透明であるという特徴を持つ。そのため古くから研究された材料であり,現在でもマイクロ波発振器やマイクロ波フィルタ,光アイソレータなどに広く応用されている。

研究グループは,ミリメートルスケールの強磁性体結晶球をマイクロ波空洞共振器の中に配置し,強磁性体中のマグノンと共振器中のマイクロ波光子の相互作用を,初めてそれぞれ量子1個のレベルで実現し,量子力学的な振る舞いを確認した。

さらに,超伝導量子ビット素子と強磁性体球をひとつの空洞共振器の中に配置することにより,空洞共振器中のマイクロ波光子の自由度を介して,超伝導量子ビットと強磁性体中のマグノンがコヒーレントに結合していることの証拠を見出した。

この研究成果はスピントロニクスの分野でも注目を集めているマグノンの振る舞いの量子極限における研究を可能にし,さらに,研究が目指している複合量子系は,量子インターフェイスや量子中継器への応用が期待されるものだという。

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