京都大学とロシア特別天体物理観測所の研究者からなる研究チームは,謎の天体「超高光度X線源」のうち4天体をすばる望遠鏡で観測し,その全てから,ブラックホールがガスを一気に呑みこむ時の反動で,大量のガスが放出されている証拠を捉えた(ニュースリリース)。
この事実は,これら天体がいずれも「意外に小さな」ブラックホールであり,銀河系内の特異天体SS 433と同類であることを裏付けるもの。この成果は,長年の論争の的であった超高光度X線源の正体について重要な知見を与え,ブラックホールへのガスの「落ち方」の理解にもインパクトを与えるもの。
地球の近くの銀河をX線で観測すると,銀河の中心からはなれた位置に,太陽の100万倍以上もの明るさで輝く天体が見つかることがある。これらの天体は,例外的なX線の明るさから「超高光度X線源」(UltraLuminous compact X-ray source,ULX)と名付けられている。その大部分は,星とブラックホールが重力によりお互いの回りを回っている「連星」と考えられるが,そのブラックホールの大きさが最大の論点となってきた。
銀河系内で見つかっている同種のブラックホールの質量は,せいぜい太陽の20倍程度だが,超高光度X線源はこれらよりおよそ100倍以上も明るい。これらを説明するために,大きく分けて(1)太陽のおよそ1000倍以上の質量をもつブラックホールとする説と,(2)太陽のおよそ100倍以下の「小さな」ブラックホールが理論限界を越えて大量のガスを呑みこんでいるとする説の二つが提唱されてきた。
研究グループは,四つの銀河にある超高光度X線源(ホルムベルクII X-1,ホルムベルクIX X-1,NGC 4559 X-7,NGC 5204 X-1)を,すばる望遠鏡のFOCAS装置を用いて合計4晩にわたって観測した。研究グループは,さまざまな可能性を考慮した結果,これらが「小さなブラックホールに大量のガスが一気に流れ込んでおり,その反動で,一部のガスが降着円盤風として放出されている」証拠であると結論づけた。
しかし,超高光度X線源の中のブラックホールが,SS 433と同じような太陽質量の数倍程度の「本当に小さい」ブラックホールなのか,それとも太陽質量の数十倍程度の「そこそこ小さい」ブラックホールなのか,SS 433で見られるような定常ジェットはどのような条件で生まれるのか,といった問題はまだ解明されていない。
研究チームは,本年度打ち上げ予定のASTRO-Hや将来のより高感度なX線天文衛星を用いたX線観測,および多波長観測を進めることで,最終的にこれらの謎を解決していきたいとしている。
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