理研ら,塗る太陽電池で変換効率10%を達成

理化学研究所(理研)と北陸先端科学技術大学院大学,高輝度光科学研究センターの共同研究チームは,半導体ポリマーを塗布して作る有機薄膜太陽電池(OPV)のエネルギー変換効率を,10%まで向上させることに成功した(ニュースリリース)。また,変換効率の向上には,半導体ポリマーの分子配向に合った構造のOPVを作製することが重要であることを明らかにした。

半導体ポリマーをp型半導体材料として用いるOPVは,軽量で柔軟という特長を持つ。さらに,半導体ポリマーを塗布することで作製できることから,低コスト,低環境負荷なプロセスで大面積化が可能なため,次世代の太陽電池として注目されている。OPVの実用化には,エネルギー変換効率の向上が最も重要な課題となっている。これまでは,すでに普及している変換効率20%以上のシリコン太陽電池の半分以下しか変換効率がなかった。

最近,一部の国内大手企業や欧米のベンチャー企業などがエネルギー変換効率10%を達成しているが,変換効率向上の要となる半導体ポリマーの分子構造やOPVの素子構造など,重要な技術はほとんど公開されておらず,どのような技術を用いれば10%以上の変換効率が得られるのかを示すことが,重要な課題の1つだった。そこで,共同研究チームは独自に開発した半導体ポリマー「PNTz4T」を用いてOPVの変換効率向上と機構の解明に取り組んだ。

その結果,半導体ポリマーとフラーレン誘導体を混合して作製した発電層の厚さを,従来の約150nmから約300nmと2倍に厚くすることで,電流密度が大幅に増大し,変換効率が約6%から8.5%程度まで向上することが分かった。続いて,従来のOPV素子の陽極と陰極の配置を入れ替えた逆構造素子を適用することで,変換効率を10%に向上させることに成功した。

太陽電池は発電層を厚くすると光吸収量が増えるため,電荷の発生量も増加するが,一般的に半導体ポリマーはシリコンなどの無機半導体に比べてホール移動度が低いため,ホールが電極に到達する前に電子と再結合し,電流として取り出すことが困難となり,変換効率は低下する。しかし,PNTz4Tは従来の半導体ポリマーに比べて結晶性が高くホール移動度が高いため,発電層を厚くしてもホールが電子と再結合せずに電極まで到達できる。そのため,電流量が増大し,変換効率が向上したとしている。

一般的に半導体ポリマーは,ポリマー分子が基板に対して平行な「フェイスオン配向」と,基板に対して垂直な「エッジオン配向」という2つの異なる配向状態を形成する。OPVではフェイスオン配向した分子の方が電荷を流しやすく,この割合が多い方が有利となる。大型放射光施設「SPring-8」のビームライン(BL46XU)で,発電層の詳しいX線構造解析を行なったところ,PNTz4Tの場合は,フェイスオン配向とエッジオン配向の分子が混合した状態にあることが分かった。

また,従来用いていた順構造素子と,今回用いた逆構造素子の発電層中に含まれるフェイスオン配向の分子の割合を比べたところ,PNTz4Tは上部電極方向にホールを流しやすいことがわかった。しかし順構造素子では,ホールを収集する陽極は下部電極として配置されているため,フェイスオン配向のメリットを十分に生かしきれていない。これに対して,逆構造素子ではホールを収集する陽極が上部電極として配置されているため,ホールの流れに合った構造となり,変換効率が向上したという。

これまで,半導体ポリマーの分子配向様式を制御することが重要であることはよく知られていたが,今回初めて,OPV中において半導体ポリマーの配向様式に分布があること,さらにこれに合った素子構造に改善することが効率向上の鍵であることを明らかにした。これはOPVの高効率化を目指す上で,非常に重要な知見となる。研究グループは今後,PNTz4Tに改良を加え,材料に適した素子構造を開発することで,実用化の目安とされるエネルギー変換効率15%の到達に大きく近づくと期待している。

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