4月2日,富士通研究所は2015年度研究開発戦略説明会を開催し,今年度の開発指針を発表するとともに,新規技術の発表および開発技術の展示を公開した。冒頭の挨拶の中で同社社長の佐相秀幸氏は,来たるべきIoT時代「ハイパーコネクテッド・ワールド」において,クラウドも複数のクラウド同士がアメーバ的に連携する「ハイパーコネクテッド・クラウド」が形成されるとして,これにキャッチアップする技術開発を進めると述べた。
同氏はコアとなる技術トレンドとして,ビッグデータをはじめとする情報技術「クラウドと連携する安心・安全な知能コンピューティング」,ウェアラブルデバイスのようなスマートデバイスによる技術「人・情報・モノをつなぐハイパーコネクテッド・ネットワーキング」,先述したクラウドを中心とするインフラ技術「ハイパーコネクテッド・クラウドを支える統合インフラ」の3つを挙げ,東京オリンピックをひとつの区切りとして新たな「技術とビジネスモデル」を創出することを目標に掲げた。
同社の研究予算規模は年間300億円。これをトップダウンで,事業化に直結する事業化研究に30%,中期的な研究である先行研究に50%,将来的な先端基礎研究や応用研究である長期・戦略研究に20%をそれぞれ配分する。また,今年度は富士通のビジョンに沿った研究を展開するために研究体制を一部刷新し,システム技術研究所,知識情報処理研究所および応用研究センターを新設すると共に,従来の研究所の再編も行なった。
この日行なわれた新規技術発表はこうしたICT技術に直結するもので,ひとつは世界最速となる200Gb/sで通信をモニタしながら品質を解析するソフトウェア(ニュースリリース)。従来は 通信パケットのモニタリングは専用の装置を用いて行なっていたが,パケット受信がCPUの性能に依存することや,並列処理がメモリアクセス性能によって間に合わなくなるといった問題があった。
この技術では,割り込み処理を複数のCPUに分散させることでCPUへの負荷を減らすとともに,パケットや解析データの処理や参照のタイミングを調整して参照中の領域への書き込みが起こらないようにするなどして,これまでの10倍となる200Gb/sでのパケットのモニタリングと解析を可能にした。ソフトウェアと汎用のサーバだけでサービスを実現するので大幅なコスト削減も見込まれる。
これにより,ネットワークの通信量の算出やパケットロスとネットワークの遅延の検出が可能となり,これまで長時間かかっていた障害の原因と場所の迅速な究明や,サイバー攻撃の発信源と被害を受けたサーバの特定などが可能になるという。
もう一つはスマートフォンとプリンタやセンサなどの周辺機器を簡単に接続できるWebOS技術(ニュースリリース)。従来スマートフォンでこうした周辺機器を使用するためにはOSや周辺機器ごとに専用アプリケーションが必要なため.ユーザはその都度インストールを迫られる一方,開発側もOSや周辺機器に合わせたアプリケーションを開発しなければならなかった。
開発した技術は,スマートフォンなどの端末でHTML5などのWebアプリケーションから周辺機器のデバイス制御を可能にするもの。具体的にはWebベースのアプリケーション層とOSの汎用通信インタフェースのブリッジ制御を開発した。これによりドライバをWeb層に配置することが可能になり,ドライバのOS依存性を無くした。また抽象化APIにより,アプリケーションを変更することなく周辺機器を接続することができる。
この技術により,デバイスメーカはOSに依存しないアプリケーションやドライバの開発が可能になると共に,ユーザは周辺機器をスマートフォンなどに即座に繋いで使用るすることが可能になるとしている。
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