九大,フレキシブルな高性能n型熱電変換材料を開発

九州大学,カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の研究グループは,カーボンナノチューブ(CNT)の内部空間にコバルトセンと呼ばれる分子を内包させることにより,これまで作製困難であった高性能なn型熱電変換材料の開発に初めて成功した(ニュースリリース)。

省エネルギー社会の実現に繋がると期待される,熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する熱電変換材料の開発が世界中で進行している。これまでに実用化されている熱電変換材料は無機材料でできたものが一般的だが,希少金属を使用するため,高価,重い,脆いといった点からごく一部の用途に限られている。

そのため,安価かつ軽くて柔軟性もある有機材料でできた熱電変換材料の開発に注目が集まっている。しかし,無機材料と比較して,有機材料は熱電変換性能が低い。また,高性能な熱電変換デバイスを構成するためにはp型とn型の異なる熱電変換材料が必要だが,n型の熱電変換材料開発はp型の熱電変換材料と比べて遅れている。

有機熱電変換材料の高性能化を目指し,優れた電気伝導率を有するカーボンナノチューブ(CNT)が注目されている。しかし,CNTはp型の熱電変換特性を示すため,オールCNTの高性能な熱電変換デバイスを構成するためにはp型からn型へと物性を変換する必要がある。多くの研究ではp型からn型へと物性を変換する分子(ドーパント)とCNTを混合することでCNTの物性を制御している。しかし,この方法ではドーパントが容易にCNT表面から脱着して安定な物性を得ることが難しいとされている。

研究グループでは,ドーパントをCNT内部のナノ空間に収納することで,優れた熱電変換性能を有するフレキシブルCNTシートを開発した。ドーパントにあたるコバルトセンをCNT内部に収納すると,電荷移動相互作用により,CNTシートにおいて電荷の運び手が正孔から電子へと変化し,n型の熱電変換物性を示した。

さらに,CNTシートの電気伝導率の向上も見られ,高い熱電変換性能を示した。コバルトセン内包CNTシートの熱電性能指数は約0.16であり,これまでに報告されているn型の有機熱電変換材料中で高い値を示した。また,得られたCNTシートは柔軟性があり,何度も曲げることができる。これは元々柔軟性のあるCNTがしっかり絡まりあっているためだと考えられるという。

研究グループはまた,p型の熱電変換材料として内包処理をしていないCNTシート,n型の熱電変換材料としてコバルトセン内包CNTシートから構成されるオールCNT熱電変換デバイスを作製し,起電力を取り出すことにも成功した。

有機熱電変換材料の実用化にはその低い熱電変換性能と安定性が障害となっている。特に,実用化のためには熱電変換性能が1.0以上という高い数値が必要といわれている。しかし同時に,熱電変換性能及び安定性を向上させることで,軽量・フレキシブルといった特徴を有する有機熱電変換材料の実用化の可能性が高まる。

研究グループは今後,有機熱電変換材料の熱電変換性能及び安定性の更なる向上を指向した研究を進め,CNTのエネルギー分野への更なる基礎及び応用研究を行なっていくとしている。

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