熊本大ら,3億年前の魚類の化石から眼の軟組織を発見

熊本大学,英国自然史博物館,群馬県立自然史博物館,英国レスター大学,横浜国立大学,群馬県産業技術センター,藤田健康衛生大学,鳥取大学,広島大学,九州大学総合研究博物館らは共同研究として,アメリカ合衆国カンサス州の石炭紀後期(約3億年前)の棘魚類(形態的にはサメ・エイなどの軟骨魚類とタイ・ハマチなどの硬骨魚類を含んだグループの姉妹群にあたる絶滅魚類)の一種,アカントーデスの眼に,錐体細胞や桿体細胞の化石の一部を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

動物の眼は外界の情報を受容する重要な器官て,その化石記録はカンブリア紀前期(5億2000万年前)にさかのほる。しかし,眼の化石は三葉虫の複眼など化石として残りやすい硬組織を持つ無脊椎動物化石では数多く研究されてきたが,軟組織のみからなる脊椎動物ではほとんど研究されていなかった。

今回の調査では石炭紀後期の棘魚類の一種である「アカントーデス」の化石標本の眼の部分に着目し,詳細な形態分析を行なうことによって,通常では化石に残らない眼の軟組織が保存されていることを発見した。このうち,光受容器官の化石について,現生の脊椎動物のものも含めて,形態解析を行なった結果,アカントーデスの光受容器官には,明暗を識別する桿体細胞に加え,色を識別する錐体細胞も保存されていることを発見した。

堆積学的証拠から,アカントーデスは極めて浅い水域に生息していたことが考えられ,色鮮やかな環境を見ていたと考えられる。また,化学的分析によって,アカントーデスの眼から,ユーメラニンが検出された。これまでの最古のユーメラニンの化石は約2億年前のジュラ紀のもので,今回の研究によって,ユーメラニンの化石記録が1億年も遡れることも判明した。

さらに,桿体細胞,錐体細胞,そしてユーメラニンの存在から,アカントーデスの眼がretinomotor activity(錐体細胞が活発な日中と,桿体細胞がより活発な夜中の2つの視覚様式)を持っていたことも解った。

研究グループは今回の研究成果について,絶滅した脊椎動物(例えば恐竜や魚竜,マンモス)か,実際にどのような世界を見ていたかを解明する手掛かりになるものと期待している。