東北大ら,準天頂衛星を用いた高信頼・高速無線通信ネットワークを提案

東北大学,東京工業大学,高知工科大学,広島大学,富山高等専門学校,三菱電機は,日本電気,ソフトバンクモバイルの協力のもと,今後増大する通信帯域に適応し,災害時でも必ずつながる情報通信ネットワークとして,複数の異種無線通信方式の融合による高信頼・高速無線通信ネットワーク「ディペンダブル・エア(Dependable Air)」の提案を行なう(ニュースリリース)。

これは,準天頂衛星システムにより実現される高精度な時刻情報(ナノ秒精度)・位置情報(センチメートル精度)や双方向通信機能を活用し,さらに複数の異なる無線通信システムを融合することで,地上インフラを完全喪失した場合にも必ずつながる新たな情報通信ネットワークへの進化を目指すもの。

現在,10年後には必要となる通信回線の容量が1,000倍になるという試算が出ており,これは,現在の携帯電話システムの改良だけでは収容できない。また,東日本大震災時には,携帯電話の利用が集中したために輻輳が起こり,電話やメールが使いづらい状況が生じた,今回提案する「ディペンダブル・エア」は 3つの通信環境(3S:Space(宇宙),Surface(地上),Sea(海洋))を統合し,これらの環境のいずれにおいても通信できることを目指す。

そのためには準天頂衛星システム(QZSS)がキーとなる。QZSSはGPSと同様に位置情報と時刻情報を地上の端末に提供する日本の衛星測位システム。このシステムには,東日本大震災以降に安否確認システムが加えられた。

これは,地上の携帯電話などから通信衛星(Space(宇宙))に対して直接情報を送り,近親者間での安否確認や行政機関の救援活動などに利用するもの。今回の研究開発においては,この準天頂衛星システムを用いた安否確認システムを実現するために,QZSSロケーション・ショートメッセージSS-CDMA(スペクトラム拡散・符号分割多元接続)通信方式(後述)について研究開発を行なっている。

Surface(地上)の通信システムは,QZSSによる高精度な位置・時刻情報を用いた,開発する異種無線融合システムのネットワーク選択手法(後述)により,携帯電話やスマートフォンはその位置における適切な手段を即時に判断し,利用者が複数のシステムを利用していることを意識することなく,快適かつ信頼性の高い通信を行なうことが可能となる。

Sea(海洋)における通信は,例えば,海洋の船舶との通信においては,より高速な衛星通信システムが必要になってくる。また,水中での通信も重要な要素の一つになる。

研究グループは,SS-CDMA方式により,携帯端末が,端末に搭載可能なアンテナや送信電力(1W)を用いて約36,000kmの距離にある通信衛星と通信可能であることを示した。QZSSの高精度測位信号を利用することで全無線局を高精度に時間・周波数同期し,上りリンクで各端末からの信号を干渉なく復調することができる(CDMA拡散符号直交の実現)。回線設計の結果,計算機シミュレーション上では1時間あたり300万端末を超える端末収容数を実現できるという。

また,増大する通信回線容量を確保するためには,携帯電話の基地局や無線LANのアクセスポイントを高密度に配置することが有効だが,一方で端末が検出すべきネットワーク数の増大により,最適なネットワーク選択が難しくなる。

一般に,端末はネットワーク検出のために各ネットワークの基地局・アクセスポイントから報知されるビーコン信号を捕捉することで,通信品質の良好なネットワークを選択するが,端末は常にビーコン信号を調べる必要があり,これらが測定時間や携帯端末の消費電力の増大につながっている。

開発する異種無線融合システムのネットワーク選択手法では,ネットワーク選択のためにQZSSやGPSの信号を用いた端末の高精度位置情報とマップ情報を用いる。マップ情報は制御局にて作成される情報で,ある位置における信号品質やネットワークの混雑状況があらかじめ判明しており,接続すべきネットワークの優先順位がつけられている。

各端末はネットワーク検出や信号品質測定を行なうことなく,自身の位置情報とサーバ側から提供されるマップ情報を用いてネットワークを選択できる。マップ情報はサーバから報知されるとともに,端末からデータ回線を通じて要求するなど個別の提供を受けることも可能。マップ情報の作成や取得などに必要な通信はリアルタイムに行なう必要がないため,空き時間を用いることでネットワークへの負荷が軽減可能となるという。

研究グループでは,QZSSの双方向通信機能を活用し,さらに複数の異なる無線通信システムを融合することで,地上インフラを完全喪失した場合にも必ずつながる新たな情報通信ネットワークへの進化を目指す。

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