高エネルギー加速器研究機構(KEK),東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU),米カリフォルニア大学バークレー校,同サンディエゴ校などの研究者で構成されるPOLARBEAR実験グループは,世界ではじめて宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光の観測結果のみに基づいて,重力レンズ効果による偏光パターンを測定することに成功した(ニュースリリース)。
CMBとは,宇宙のどの方向からも一様に飛来している電磁波。138億年前に発せられたこの電磁波は,我々が観測できる「宇宙最古の光」であるため,宇宙の誕生と進化,その背後にある物理法則の謎を解く鍵を握るとされている。
CMBの偏光観測では,「偏光Bモード」と呼ばれる特殊な渦状のパターンを調べることが重要で,世界的に注目されている。ビッグバンを引き起こしたと考えられる宇宙誕生直後の急激な大膨張,すなわちインフレーション仮説によれば,インフレーションの際に時空が振動することで生じた波である「原始重力波」により,大きな渦の偏光Bモードができたと予想されている。これを観測できれば,初期宇宙の誕生の様子が明らかにできると期待されている。
また,CMBが地球に届くまでの間に,宇宙空間内に分布する物質の影響で曲がる「重力レンズ効果」により小さな渦の偏光Bモードができることが予想されている。小さな渦の偏光Bモードを精密に測定できれば,現在の宇宙の大規模構造(宇宙が持つ巨大な網目状の構造)の理解の鍵を握るとされる,宇宙全体に存在するニュートリノの質量の総和,すなわちニュートリノ質量和も解明できると考えられている。
CMBの偏光観測は,チリ・アタカマ高地(標高5200m)に建設された,直径3.5mの主鏡から成る望遠鏡と最先端の超伝導検出器を用いて,CMBが大気を通過しやすい波長である150GHz帯を測定した。CMBを主鏡で集光した後,直交した2つのアンテナを使って,キャッチした光を2成分の偏波に分割し,この偏波の強度を超伝導検出器で測定,その差を取ることで偏光の有無を調べた。
実験グループは,一連のPOLARBEAR実験によるCMB偏光観測により,重力レンズ効果による小さな渦の偏光Bモードを世界で初めて観測した。4.7σ(シグマ)の有意性(99.999%以上の確率)での測定に成功し,将来のニュートリノ質量和の精密観測に向けた道筋を拓いたとしている。
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