産総研ら,高効率な熱電変換が可能な低環境負荷の人工硫化銅鉱物を発見

産業技術総合研究所(産総研)と広島大学の研究グループは,天然硫化銅鉱物の一種コルーサイトと同じ結晶構造の人工鉱物Cu26V2M6S32(M = Ge,Sn)を合成し,400℃付近で高い熱電変換性能を示すことを発見した(ニュースリリース)。

熱エネルギー(温度差エネルギー)と電気エネルギーを相互に効率よく直接変換できる熱電変換材料を用いた熱電発電は,化石燃料を必要とせず,機械的な可動部がないため,長寿命・静音・無振動という長所も併せ持ち,さらに,従来捨てられていた熱エネルギーから電気エネルギーを生み出すことができるという特長がある。

近年では,自動車の廃熱(約400℃)を回収・利用した発電の実用化に向けた取り組みが進められている。しかし,この温度領域で使用されてきたテルル化鉛(PbTe)は,有毒元素であるPb(鉛)とレアメタルであるTe(テルル)を含んでいる。そのため、地殻埋蔵量が多く毒性の低い元素を用いた熱電変換材料の開発が急務となっていた。

今回注目したコルーサイトCu26V2M6S32は,CuとSを主成分とし立方晶(等軸晶)系の結晶構造を持つ。天然のCu26V2M6S32はMとして毒性元素のAs(ヒ素)を含む。また,Mの中に含まれるAs,Sb,Ge(ゲルマニウム),Snの割合がさまざまであるために,熱電特性が一定ではないと考えられる。そこで今回,AsとSbを含まないM = GeとM = Snを人工的に合成して熱電特性の評価を行なった。

まず,構成元素を1000℃以上の高温において直接反応させ,次に,その粉砕試料を加圧しながら高温で焼結させて高密度試料を得た。物性測定の結果,これらの試料がp型の金属的な電気伝導性を示し,400℃(673K)において高い無次元熱電変換性能指数ZT = 0.7(Ge),0.6(Sn)を示すことを見いだした。

この値は熱電変換効率に換算すると6~7%程度に相当し,既報のPbTeやNiを置換したテトラへドライトに匹敵する。コルーサイトでは,構成元素の一部を価電子数の異なる元素で置換すればホールキャリア密度を容易に調節できるので,既存材料を上回る高いZTが得られると期待される。

コルーサイトがこのような高いZTを示す原因は熱電出力因子が高く,しかも格子熱伝導率が低いため。p型伝導と高い出力因子はCu-3dとS-3pの混成軌道からなる価電子帯に由来することが第一原理電子状態計算によって分かった。

また,格子熱伝導率がSiO2ガラスにくらべて半分以下という極端に低い値を示すのは,単位格子中に66個もの原子を含んだ複雑な結晶構造を持つため。このように,高い熱電変換性能をもたらす結晶構造と電子構造の特徴が明らかになったので,今後、さらに高い性能を示す人工鉱物の開発が進むものと期待される。

元素戦略の面からも,ベースメタルであるCuおよびSnと地殻埋蔵量の多いSを主成分にしていることと,レアメタルであるバナジウム(V)をごくわずかしか含有していない。さらに,毒性が強い元素を主成分としていない点も特長。研究グループでは,これらの特徴を併せ持つ高性能コルーサイトの発見は,熱電発電の大規模化に資すると期待している。

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