IBM Researchとスイスに本拠を置くソーラパワー・テクノロジーのAirlight Energyは,経済性に優れたなソーラ・テクノロジーを2017年までに販売を開始すると発表した(ニュースリリース)。
HCPVT(High Concentration PhotoVoltaic Thermal,冷却熱利用型超高集光太陽電池システム)と呼ばれるこのシステムは,太陽光を2,000倍集光し,その80%をエネルギーに変換し,晴天であれば12kWの電力と20kWの熱を生み出すことができる。
システムは高さ10mのひまわりに似た形で,内側に36枚の楕円形の鏡が敷き詰められた40㎡のパラボラが,高精度太陽追尾型台座に搭載される。この鏡は,銀でコーティングされた,厚さ0.2㎜の薄型でリサイクル可能なプラスチック・フォイルが素材になっている。
太陽光はこの鏡によって,複数のマイクロチャネル型水冷レシーバに集光される。各レシーバには,多接合型の太陽電池チップが高密度に実装されている。各チップは1㎝角で,通常の晴天の日中であれば最大57W発電する。鏡とレシーバは大型の透明プラスチック筐体で保護されている。
この太陽電池チップは,人工衛星に装備されるものに近く,微細化層上に実装されている。この微細化層内にごくわずかの冷却液を流してチップの排熱を行なう。この方式により一般的な空冷方式と比較して効率を10倍以上高くすることができる。
冷却なしではチップの温度は1,500℃を超えるが,温度85℃~90℃の温水が,チップを安全な動作温度である105℃に保つ。小さなポンプを活用した直接温水冷却設計は既に商用化されており,2012年に欧州で最高速のスーパーコンピュータとなったIBMの高性能コンピューターにも採用されている。
このシステムにより,同社では量産において,競合システムの1/2~1/3までコストを削減できるとしている。
Airlight Energyは,HCPVTシステムを世界で販売およびライセンスするため,DSolar(dish solar)社を設立した。 Dsolar社は,温水チップ冷却領域における複数の特許のライセンスをIBMから取得した。
適切な保守により,HCPVT構造の動作寿命は最長60年となっている。保護フォイルとプラスチック製の鏡は,環境に合わせ10~15年で交換する必要がある。また,太陽電池セルは25年ごとの交換が必要となる。その際,新たな部品を組むことでシステムの効率をさらに向上させることが可能になる。
また,種々の設備を追加することにより,たとえば,受光面積1㎡あたり一日30~40ℓの飲料水を,海水の淡水化により生み出し,同時に2kW/hの発電もできる。また,熱駆動の収着式冷凍機により空調も可能になる。
最初のHCPVTシステムは,蒸留および収着式冷凍システムとともに提供される予定。その後,最適化した淡水化および収着式冷凍テクノロジーを提供する予定。まず,HCPVTシステムは2つの自治体に寄贈される。
両社は,南ヨーロッパ,アフリカ,アラビア半島,北アメリカ南西部,南アメリカ,日本,オーストラリアを含む世界各地でHCPVTシステムにより再生可能エネルギーを供給したいとしている。また,このシステムの用途として,一般住宅に加えて,遠隔地の病院,医療施設,ホテル&リゾート,ショッピング・センター,地価が非常に高い場所などを挙げている。
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