東北大学,豪ニューサウスウェールズ大学,米オークリッジ国立研究所らの共同研究グループは,強誘電体材料の分極ドメインをナノ構造化することにより,走査型圧電応答顕微鏡(PFM)を用いて,分極自由回転状態の書込みと読込みに成功した(ニュースリリース)。
現在,強誘電体メモリに用いられている多くの強誘電体材料では,分極容易軸方向に沿った異なる2つの分極状態を利用して情報の書込み,読出しを行なっている。もし,異なる分極状態が2つ以上存在すれば,それだけ書き込める情報量は大きくなるが,強誘電体結晶の多くは,結晶の対称性によってその分極状態の数は限られている。
これに対し,最近<強誘電体の分極容易軸方向が結晶の対称性に束縛されない,すなわち分極軸が自由に回転することが,よく知られた強誘電体PZT系薄膜材料で報告された。これにより,理論上は,記録密度が現状の2桁増大することが期待される。しかし,これまでは,透過型電子顕微鏡によるその存在が示されただけだった。
共同研究グループは,ナノ相分離構造を精密に制御したエピタキシャル強誘電体薄膜では,面内の分極軸が自由回転することを見いだし,PFMを用いて任意方向に分極の書込みと読込みが可能であることを実証した。
今回,強誘電体の分極ドメインをナノサイズ化するために,ナノ相分離構造を用いた。実際には,層状ペロブスカイト型強誘電体 Bi5Ti3FeO15(BTFO)と強磁性体CoFe2O4(CFO)を,パルスレーザ堆積(PLD)法により,共蒸着,あるいはナノレベルで交互蒸着を行なうと,強誘電体BTFO母体薄膜中に柱状のCFOがナノレベルで貫通したナノ相分離構造が形成される。
BTFO-CFOナノ相分離薄膜表面で,バイアス電圧を印加しながらPFMのカンチレバーを走査すると,面内でTrailing fieldと呼ばれる電界が走査方向に生じる。この電界方向をカンチレバーの走査方向を変化させて,任意の面内方向に分極させることを試みた。
その結果,読出し走査方向を一定にして,書込みの走査方向を変化させると,PFMの検出信号の振幅は,書込みと読出しの走査方向のなす角θに対し,cosθの依存性を示した。一方,位相はθに依存せず,面内の分極軸が任意方向に回転できるようになることを発見した。
BTFO-CFOの局所界面では,柱状のCFOから母体のBTFO薄膜にストレインを及ぼし,局所的な秩序構造の乱れを引き起こす。この秩序構造の局所的乱れにより,分極ドメインのサイズがナノレベルにまで小さくなり,面内の分極軸が自由回転するようになったと考えられている。
研究グループは今回の研究成果について,現在使われている強誘電体メモリの記録密度を大幅に向上させる可能性を有すとし,今後,ナノ相分離構造の違いが,強誘電体母体薄膜における面内分極軸の自由回転に及ぼす効果を精査し,ナノ相分離界面でのストレインと分極ドメイン構造,その結果得られる分極軸の自由回転との関係を実験的に明らにし,分極軸自由回転現象を説明する理論を構築することが重要だとしている。
また,ナノレベルでの空間的なストレイン制御が新たな物性・機能をもたらすことになった今回の成果は,材料開発の新しい指針としても重要であり,材料科学分野に大きなインパクトをもたらすことが期待できるとしている。
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