岡山大学はドイツとスウェーデンの共同研究者らと共に,キイロショウジョウバエを用いて,概日時計の出力物質の探索を行なった結果,「ITP (Ion transport peptide)」と呼ばれるペプチド(様々なアミノ酸がつながっている分子)が,概日時計の出力因子であることを初めて突き止めた(ニュースリリース)。
ショウジョウバエの脳には約150個の時計細胞があるが,ITPはその中の4つの時計細胞内に存在している。1995年に発見されたPDF (Pigment-dispersing factor)とよばれる概日時計の出力物質と,ITPの両方を発現しないハエでは,行動の活動リズムに大きな乱れが生じ,睡眠量が著しく減少することが分かった。
ITPは神経伝達物質として働く神経ペプチドであることから,ITPが概日時計の時間情報を運ぶ,新規の出力因子であることが明らかになった。
概日時計の本体である脳の時計細胞から,時間情報がどのように出力されているのかは,すべての動物においてほとんど分かっていない。この研究では,モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いることで,概日時計の出力物質を明らかにすることができた。
時計細胞からの時間情報の出力は,複数の神経伝達物質が関与する非常に複雑な機構であると予想できる。
研究グループは今後,この分野の研究が進み,ヒトの体内時計の時間情報の伝達機構が解明されることで,体内時計の乱れが原因と考えられる睡眠障害,うつ病,肥満などの治療に大いに役立つことが期待されるとしている。
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