埼玉大,スズを骨格に含む累積サンドイッチ化合物の合成に成功

埼玉大学の研究グループは,スズを骨格に有するメタロールジアニオン(スタンノールジアニオン)骨格を用い中性の累積サンドイッチ化合物を合成し,その新しい性質を明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。

今日隆盛を誇る遷移金属化学の歴史の中で,1951年に合成された,ベンゼンと同様な芳香族性をもつ化合物:芳香族化合物であるシクロペンタジエニルアニオン(C5H5-)が鉄(II)イオンをサンドイッチしたフェロセンは,サンドイッチ構造というそれまでにない概念をもたらした革新的な化合物であった。

現在,様々なシクロペンタジエニルアニオンの類縁体が合成され,サンドイッチ化合物の構成単位として用いられている。一方,シクロペンタジエニルアニオンの骨格を構成する炭素を同族で高周期の元素に置き換えると,高周期元素M上の水素も負電荷に変えることができ,メタロールジアニオン(C4MH42-)とすることができる。

研究グループは,スタンノールジアニオン1に0.5当量の[Cp*RuCl]4(Cp* = C5Me5)を作用させたところ,スタンノール環の両側にルテニウムが配位した初めての中性累積サンドイッチ化合物2の合成に成功した。

ルテニウムは鉄と同族の高周期元素であり,フェロセンと同様にルテノセンというサンドイッチ化合物が存在する。従って,化合物2は,分子内に2つのルテノセン構造を有するとみなすことができる。このような構造はシクロペンタジエニルアニオンのような炭素のみからなる配位子では達成不可能。

続いて得られた累積サンドイッチ化合物2の電気化学的な挙動を調べたところ,2はフェロセンよりも酸化されやすいことがわかった。この現象は,ルテノセンはフェロセンよりも酸化されやすいこととは対照的で,常識では考えられないという。

これは,スズという重原子の導入により,ルテニウムに対する配位子の電子供与能がシクロペンタジエニルアニオンの場合よりも増加し,ルテニウム原子の電子密度が極めて上昇したためであると考えられる。即ち,スタンノールジアニオンの電子供与能は,遷移金属原子固有の性質を変えてしまうほど大きいことが分かった。

今回の研究成果により,中性累積サンドイッチ化合物という新しい化合物の概念が誕生した。また,スタンノールジアニオンの強力な電子供与能も明らかになった。研究グループは,今回はルテニウムを用いたが,今後,様々な遷移金属原子を有する累積サンドイッチ化合物の誕生が期待されるとしている。そのようにして合成された累積サンドイッチ化合物は,その電気化学的な挙動を活かした機能性分子さらには触媒としての応用が期待されるという。

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