慶應義塾大学の研究チームは,宇宙竜巻「トルネード」について詳細な電波観測を行ない,その駆動メカニズムを解明した(ニュースリリース)。宇宙竜巻「トルネード」とは,螺旋状の特異な形態を有する電波天体で,永らくその正体は不明とされてきた。
2011年,京都大学を中心とした研究チームによってトルネード両端にX線を放射する高温プラズマの塊が検出され,それが回転ブラックホールからの双極ジェットによって形成されたとする説が提唱された。しかしながら,そのブラックホールは現在活動しておらず,一時的活性化の原因は分かっていなかった。
今回,慶應義塾大学の研究チームは,電波望遠鏡を用いてミリ波帯スペクトル線観測を行ない,トルネード方向に二つの分子雲を検出した。これらはトルネードに付随しており,これらの二つの分子雲から、衝撃波起源のメーザー放射が行われている事を確認。「トルネード」との激しい相互作用の証拠と結論付けた。
また,これらが20km/秒以上もの速度差を有し,かつ相補的な空間分布をしている事から,この分子雲同士が過去に激しい衝突を起こしたものと推測した。
研究グループはこれらの新しい事実から,トルネードの駆動源が,分子雲衝突で形成された衝撃波が30太陽質量以上のブラックホールを通過する際に発生するBondi-Hoyle-Lyttleton降着流(点状重力源が媒質中を運動する時,近くの媒質が後方の「航跡」に集積された後,重力源へと降着する流れのこと)による重力エネルギー開放だと推測している。
今回,太陽の数倍から数十倍のブラックホールの存在を,トルネードの中心に間接的ながら確認した事は大きな成果であり,ブラックホールの新しい活性化プロセスを提案したことにより,新種の天体研究の端緒が開かれるとしている。
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