東京医科歯科大学の研究グループは,体外に取り出し培養した小腸上皮細胞をマウス消化管(大腸)へ移植する実験に成功した(ニュースリリース)。その結果,移植細胞が正常な上皮を再生する幹細胞として機能できること,また,小腸上皮幹細胞が自身の小腸としての性質を長期にわたって維持できることが明らかになった。
研究では,小腸上皮細胞を体外で増やし,傷害されたマウスの大腸組織に移植することで組織再生能を評価した。このために,肛門付近の大腸に上皮の欠損を生じる大腸傷害マウスモデルを新規に作成した。一方,全身で蛍光を発する別のマウスから小腸上皮細胞を取り出し増やした後に,大腸傷害マウスへ注腸法で移植した。
直後の大腸を調べると,蛍光で識別できる移植小腸細胞が大腸組織に接着し,新しい上皮を形成し始めることがわかった。2週間後には,移植細胞が複雑な構造を形成しながら,生体内でさかんに分裂・増殖を繰り返すこともわかった。4週間あるいは4か月経過後にも,小腸細胞が移植をうけたマウスの大腸に安定して組み込まれていることがわかり,これら移植細胞が体内で上皮組織を再生する幹細胞として機能することが明らかになった。
次にこの移植片を詳しく調べたところ,増殖を繰り返す細胞群とともに通常の小腸上皮に含まれる全てのタイプの細胞を含むことから,移植された細胞が個体内で小腸型の上皮幹細胞として機能したことが示された。移植片内には通常小腸に見られ大腸には見られない特有の構造(絨毛構造)や特別な細胞(パネート細胞)が含まれること,移植片内の細胞が示す遺伝子パターンも大腸とは明らかに異なることもわかり,実際に小腸型上皮幹細胞に特徴的な形態と機能を持つ細胞を確認することもできた。
以上の結果から,体外で増やした小腸上皮幹細胞が,たとえ自身が由来する小腸と異なる(大腸)環境に長期間おかれても,小腸型幹細胞としての性質を維持できることも明らかとなった。大腸上皮幹細胞移植の成果をさらに発展させたこの研究は,上皮幹細胞を体外で増やし,これら細胞の移植で病気を治療する再生医療アプローチが,小腸疾患にも応用可能であることを初めて提示するものだとしている。
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