理化学研究所(理研),山口大学,浜松医科大学らによる研究グループは,統合失調症や自閉症といった精神疾患の発症に,脂肪酸を運搬する「脂肪酸結合タンパク質(FABP)」が関与する可能性を見出した(ニュースリリース)。また,患者からFABPをつくる遺伝子に変異がある症例を発見した。
統合失調症や自閉症の発症に関連する物質の1つとして「脂肪酸」が注目されている。脳の細胞内では,水分になじまない脂肪酸を目的の場所へ運搬する3種のFABP(FABP3,FABP5,FABP7)が働いているが,過去に研究グループは,FABP7をつくるFABP7遺伝子が統合失調症に関連することを報告している。
そこで今回,検討対象とする遺伝子をFABP3とFABP5へ,対象とする疾患を統合失調症との発症メカニズムの類似性が指摘されている自閉症へと広げ,FABPが精神疾患に及ぼす影響の包括的な理解を目指した。
統合失調症と自閉症の患者の脳や血液細胞を用いて,3種のFABP遺伝子の発現量を発症していない人と比べたところ,FABP5とFABP7の発現量が上昇または低下していることを発見した。次に,2,097人の統合失調症患者と316人の自閉症患者のサンプルを用いて,3種のFABP遺伝子の変異を調べた。
その結果,8つの遺伝子変異を発見し,その中にはFABPの機能異常を引き起こすものが含まれることを突き止めた。さらに,これらの遺伝子を破壊したマウスを解析したところ,Fabp3やFabp7を破壊したマウスで精神疾患に関連のある行動異常が観察された。
これらの結果から,脳で働くFABPの「量」や「質」の変化が,統合失調症や自閉症の病因に関わる可能性があることが判明した。今後,脂肪酸とその結合タンパク質に着目した研究を進めることで,統合失調症や自閉症の新たな診断法,治療法,予防法の開発へ繋がると期待できるとしている。
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