北海道大学電子科学研究所・教授の三澤弘明氏と准教授の上野貢生氏の研究グループは,中国 吉林大学・教授の孫洪波氏と共同で,配向性を持つ銀ナノプレート構造を,フェムト秒レーザを使用して作製することに成功した。
これまではサイズや形状,配向性の揃った金属ナノ構造を作製する場合,光を用いては作成が難しく,電子ビームリソグラフィなどの精密なナノ加工技術を必要とした。これは,光には回折限界があり,光の波長よりも極端に小さい空間に光を絞り込むことができないためだ。つまり,加工サイズは波長で決まるということになる。
今回研究グループは,光と金属ナノ微粒子が共鳴することによって生じるプラズモンの局在光電場を用いることにより,回折限界よりもはるかに小さいナノ空間に,レーザ照射によって金属ナノ構造を簡便に作製することに成功した。
研究は,還元剤や保護材として作用するクエン酸ナトリウム,それに硝酸銀を含むややアルカリ性の前駆体溶液を調整し,この前駆体溶液とガラス界面にフェムト秒レーザを照射すると,照射した空間よりもさらに小さいナノ空間に銀のナノプレートが出現することを見出した。この銀ナノ構造は,走査型電子顕微鏡観察や光電場増強効果を追跡することにより評価したという。
研究グループによれば,プラズモン共鳴が誘起され,プラズモン放射圧により,銀イオンがプラズモン増強場に集まり,レーザの偏光方向に沿って銀ナノプレートが形成されるという現象は観測され得ることだが,この原理を考察することが重要とした上で,今回の成果は「前駆体溶液の濃度条件やレーザの光強度などの条件が上手く重なって完成できた」としている。
研究に使用したフェムト秒レーザはSpectra Physics社製の「Tsunami」で,中心波長が800nm,パルス幅が120fs,繰返し周波数が82MHzの仕様。これをNA1.4の対物レンズで集光照射した。
電子ビームリソグラフィとは異なり,フェムト秒レーザでは照射面積全域にナノ構造体アレイを形成することが可能になる。スポット径が1μm弱程度あるため,電子ビームリソグラフィの1nmに比べて,銀ナノプレートを形成するスピードは速いという。その意味でレーザはスループットと大面積化にアドバンテージがある。
今後の応用展開に向けた開発課題としては,用途の模索が挙げられているが,3次元LSI配線やメタマテリアルの作製技術,人工光合成や太陽電池の光アンテナ系などへの応用が期待されている。