九州大学の研究グループは,金属容器に充填された水素が壁を透過し,内部が真空になる現象を確認した(ニュースリリース)。
日本では,燃料電池自動車(FCV)の商用販売開始が間近にせまり,FCV に水素を供給する水素ステーションの建設が進められている。水素は物質を透過しやすく,漏れやすいため,各種構造材料内における水素の透過率をデータベースとして整備する必要がある。
研究グループは,水素利用機器に使用される金属材料の透過率を簡易的に測定する方法を開発し,ステンレス SUS316L 及びインコネル 625 をコイル状にした容器を使って,種々の温度条件で透過率の測定を行なった。
測定方法として,先述のコイルを所定の温度に保ったまま,水素を一定流量で流し,コイルの周りには窒素ガスを流してコイルの壁を通過して漏れてくる水素の濃度を測定すると共に,コイルに水素を充填してバルブを閉じて内部の圧力をモニタし,その圧力の減少速度から水素の透過率を計算した。
その中で,300℃以上の高温で,初期圧力 0.7MPa(7気圧)で充填した水素が容器の壁を透過して周囲の大気圧の窒素ガスに拡散し,10~50 時間後,容器内部の圧力が最終的に10Pa(1万分の1気圧)のほぼ真空にまで減少することが確認された。
これは,水素分子が容器の金属材料の表面で水素原子に分解され,材料の中を拡散し,反対側の表面で再び分子に戻ったもの。容器外側には窒素が流してあるので,水素の分圧はほとんどゼロとなり,容器の内側から外側に向かって水素の拡散が進行する。容器の外側の窒素分子は壁を透過できないので,容器内の水素の外側への透過のみが一方向的に進行する。
このように,容器内外の水素の分圧高温で水素が金属壁を透過する現象は一般的によく知られているが,容器内部の圧力が真空になる現象はこれまでに報告されていなかった。
今回,水素の透過量を簡便に,かつ精度よく測定する方法が確立できたので,他の水素機器用の金属材料の透過率を測定し,データベースとして構築することで安全設計に活用することができるとしている。