東京大学の研究グループは,遺伝暗号に従ってメッセンジャーRNA(mRNA)からタンパク質を合成する翻訳反応について,rRNAとtRNA間の結合を壊さないようrRNAとtRNAの塩基に相補的な変異を入れ,この変異によって翻訳反応がどのように変化するかを調べた。その結果,一つの変異体の組み合わせでは,通常の翻訳機構とは独立して働くシステムが機能することが分かった(プレスリリース)。
さらに,変異を加えたtRNAに通常とは異なるアミノ酸を結合して翻訳反応を進めたところ,一種類の遺伝子から二種類のペプチドを同時に作ることができた。これは,人工的に改変した遺伝暗号に従って働く改変翻訳システムの開発に成功したと言える成果。
DNAの塩基配列からタンパク質が作られる過程では,タンパク質の合成の場所となるリボソームとアミノ酸をリボソームへ運ぶ転移RNA(トランスファーRNA,tRNA)が深く関与する翻訳反応がある。リボソームを構成するリボソーマルRNA(rRNA)とtRNAは互いの塩基が結合する相補的な3つの塩基対を形成している。これら3つの塩基対はtRNAが運んでくるアミノ酸同士をリボゾーム内で結合して,ペプチドを合成するために重要であることが示唆されていた。
研究グループは,翻訳反応におけるrRNAとtRNAの相互作用の重要性を明らかにし,さらに遺伝暗号を改変する新しい技術の開発にも成功した。このシステムは,近年薬剤候補として注目されている,非天然アミノ酸を含む特殊ペプチドの合成への応用も期待できる。